2021年10月04日

　その青年は、自分の顔が泥まみれなことに気づいていなかった。気づいていたが、長旅で疲れ、気にする余裕などなかったのかもしれない。トルコ東部ワンで、アフガニスタンから到着したばかりの難民に遭遇した。１０数人の集団は畑に座り込み、カメラを向ける私を見ていた。

　彼らを見つけたのは小麦畑の中だった。畑を歩く数人に声をかけたら、周辺から一気に数１０人が現れた。一斉に走って逃げ始め、こちらも走って追い掛けた。後で話を聞くと、「警察だと思った」とのことだった。

　難民たちは皆、イスラム主義組織タリバンの脅威から逃れてきた。密航業者に金を払ってトルコに着いたが、業者の案内はここまで。この先はそれぞれが別々の「目的地」を目指す。トルコ警察に見つかれば強制送還されるため、この国に入ったからといって安全の保証はない。

　畑に座り込んだ難民らは、しばらく休むとまた歩き始めた。行き先を尋ねると、１人が「分からない」と答えた。細長い列になって向かう先は、岩山のようになっていた。後ろ姿を見送ることしかできず、ただただ、いつか彼らが祖国に戻れるようにと願った。　（蜘手美鶴）