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英ウィスタブル よみがえる和食の味

2021年10月01日

 「落ち着いて、カキを食え」

 8月下旬、ロンドンから電車で1時間20分ほどの英南東部ウィスタブルを訪れた。お目当ては漁港での「カキ祭り」。会場入り口で受け取ったチラシの文言に期待が膨らんだ。

 ウィスタブルは古くから漁業で栄えた。祭りは1000年近く前の漁師たちの祝いの儀式が起源といい、100年ほど前から地元のカキ産業をPRする形になった。漁港周辺には「オイスター屋内ボウリング場」「オイスター駐車場」といった名前の施設もあり、カキ産業は街の誇りだ。

 観光客で混雑した祭り会場では生がきがあちこちで売られ、価格はロンドンで知る店の半額以下の1個160円ほど。座席が少ないため、大勢がレモンを垂らして立ち食いしては殻を路上のごみ箱へ捨てる。あふれないよう頻繁に殻を回収する清掃員に礼を言うと「ベストを尽くすから楽しんで」と返された。

 カキの味は濃厚で、苦味もほどほど。むさぼるように食べたが、口の中にはふと懐かしい味がよみがえった。カキを入れた炊き込みご飯や鍋料理。周囲を見回したが生がきしか見当たらない。満足感の後で和食への恋しさが湧いた。 (藤沢有哉)