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ブリュッセル 恐怖が生み出す偏見

2021年11月08日

 欧州連合(EU)関連の取材で訪れたベルギーの首都ブリュッセル。現代的なEU施設のビル群の最寄りから地下鉄で数駅先へ向かうと、訪ねてみたかった地区が姿を現した。道行く女性らはみな頭髪をヒジャブで覆い、食料品店からは刺激的な香辛料の香りが漂ってくる。

 イスラム系移民が集住し、フランスで2015年に起きたパリ同時多発テロの実行犯グループの拠点として注目されたモレンベーク地区。欧州政治の中心地から目と鼻の先の場所にこれほどの異国情緒が広がっていることに驚くと同時に、だんだんと体が緊張してくるのを感じた。実行犯の一人が住んでいた住居近くでは特に、道端にたむろしながらヒソヒソと話し込む男性たちの目線が気になった。

 だが、ふと冷静になってみた時、仏国内で流れるテレビCMを思い出した。「私を誰だと思う? テロリストかって? 違う、私の名前は『恐怖』だ」。アラブ系の男性が次々と人相を変えながらそう話し、他人を外見だけで判断することの危うさを指摘する公共広告。私も同じ過ちを犯していなかっただろうか。地区を離れる車中でそう、自問自答した。 (谷悠己)