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モスクワ 記者の死から15年…

2021年11月19日

 モスクワ中心部のこじゃれたオフィス街。その一角に残る古アパートで2006年、反政権の女性記者ポリトコフスカヤ氏=享年48=が暗殺された。

 命日から15年の7日、彼女の死を思い、暗殺現場のアパートを訪ねた。私が以前住んでいたアパートは暗殺現場の隣だったから事件に関心があった。

 彼女はロシアで評判が良くなかった。軍の犯罪や汚職など国の暗部ばかりを描き出すから。「彼女の命日を気に掛ける人などいない」と思いながらアパートに着くと、数十本の花が置かれていた。意外にも弔問に訪れる市民がいた。

 離れて観察していると、立ち止まって祈る人がいる。写真を撮る人もいる。1人の女性記者の死が今も記憶されている-。その単純な事実を確認しただけで心が軽くなった。

 翌日、驚きの展開があった。ノーベル平和賞が、ポリトコフスカヤ氏が在籍していた新聞のムラトフ編集長に贈られると発表された。ムラトフ氏は「ポリトコフスカヤら死んだ記者らのための賞だ」と言った。同感だった。あの非業の最期は、語り継がれるべき事件だ。 (小柳悠志)