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カイロ 人情豊かな庶民の足

2021年12月14日

 エジプトを走る庶民の足「マイクロバス」。日本で言うところの中型バンで、最大15人ほどが乗車可能な乗り合いバスだ。バス停や時刻表はなく、明確なルートもない。道で手を上げるとバスは減速し、行き先が同じ方向なら飛び乗る。たまに、ドアを開けたまま走っている。

 料金の払い方も変わっている。まず、前の席の人の肩をたたき、料金を渡す。受け取った人は、さらに前の席の人の肩をたたき、運転手までリレー方式で料金を届ける。お釣りも逆の流れで戻ってくる。アラブ社会では男性が女性に触れるのは失礼にあたり、男性は女性の肩をたたかないのが無言のルールだ。

 痴漢事件も起きている。座席の隙間に手を差し入れ、前の席の女性に触る。腕でも足でも背中でも、触れる部位は関係ない。とにかく女性に触れることで、犯人は興奮を覚えるという。

 日本ではどう考えても「あり得ない」このバスが、私の足となっている。英語が通じなくても、困っていれば必ず乗客の誰かが助けてくれる。降りる場所も教えてくれる。お菓子をもらうときもある。エジプト人の温かさをじかに感じる。そんな空間でもある。 (蜘手美鶴)