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英エディンバラ 日の丸とポピーの花

2022年01月24日

 血が染みた日の丸は、今もそこに飾られていた。出張で滞在した英スコットランドの古都エディンバラ。仕事の合間に、世界遺産の街にそびえ立つエディンバラ城を訪れた。30年前の学生旅行の際、城内の戦争博物館で見た日の丸の記憶が強く残り、もう一度訪れたかった。

 第二次大戦で命を落とした日本兵の遺体に巻かれていたものだ。「武運長久」と書かれた旗には大勢の寄せ書きがあり、無事の生還を願う人々の思いがあった。戦勝国の博物館の片隅にずっと飾られてきたその旗を、再び見つめて立ち尽くした。

 先月、英国では戦没者追悼記念日があり、追悼の赤いポピーの花があふれた。エディンバラでもポピーのバッジを配る募金活動をあちこちで目にした。この習慣は第一次大戦の激戦地の野原一面に咲いたポピーをうたった詩が由来。初めて募金活動に接した時、敬意を抱きつつも、日本人としてこの花を身に着けることが適切なのかふと迷ってしまい、手を伸ばせなかった。

 でも、もうそんな線引きはしなくてもいいのかもしれない。城からの帰り道、追悼の思いで目を閉じた。日の丸とポピーの花が重なった。 (加藤美喜)