2022年03月03日

　山あいを縫うように走る道の両端は、焦げた木で覆われていた。無数に突き刺さった黒い針に囲まれているよう。下草もすべて燃え、茶色い大地がむき出しになっている。生命の息吹を感じさせない無機質さが不気味だった。

　そんな山林火災に襲われた山道を下ると、昨夏に焼失した米西部カリフォルニア州の小さな町グリーンビルに着く。呆然（ぼうぜん）とした。すべてが燃えてがれきとなり、黒と灰色、茶色ばかり。消防署の跡地では、消防車が黒く朽ち果てていた。車で通り掛かった初老の女性は、周囲を見回しながら泣いていた。

　火災を免れたのだろうか、町外れで比較的きれいなスーパーマーケットが営業していた。町のがれきの撤去や、周辺の山林で燃えた木を撤去している作業員らで混み合っている。

　こんなところにアジア人が来るのは珍しいのだろう、客と店員から「どこから来たの？」と聞かれた。「日本の新聞社の記者で、取材のために」と答えると、「ああ、町が全部燃えちゃったからな。笑えるだろう？」。半ば自暴自棄なのか、本当に笑いながら聞かれた。笑えなかった。　（吉田通夫）