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韓国・浦項 歴史に向き合う観光

2022年04月04日

 韓国南東部・浦項(ポハン)市沖の海は「水半分、魚半分」と言われたそうだ。市内の九龍浦(クリョンポ)には日本の植民地時代、豊富な魚を目当てに香川県から移住した日本人が造った街並みが残る。

 街は漁業で栄えたが、日本人と朝鮮人は子どもが通う学校も別々で「交わらないから争いもなかった」。文化観光解説士の尹英淑(ユンヨンスク)さん(63)が、既に他界した古老から受け継いだエピソードの数々は、日韓の近代史を考える上で興味が尽きない。

 現在は歴史館になっている日本家屋などを、観光客に解説するのが尹さんの仕事。韓国人にとっては日本に支配された時代の記憶に触れるだけに、「自分はどういう立場で解説すればいいのだろう」と悩んだ時期もあったという。

 続けるうちに日本人の友人もでき、今は「良い歴史も悪い歴史も知ることで、お互いを理解することにつながれば」と考えている。「私は事実を説明しますが、何を感じるかはお客さんの歴史観に任せています」

 日韓の複雑な歴史を単純化して相手国への敵意をあおる動きは両国ともにあるが、地域の歴史に謙虚に向き合う人たちもいる。 (木下大資)