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ソウル 激減する靴修理の店

2022年04月08日

 経済成長が続き、高層ビルが林立するソウルの都心部。歩道脇に、コンテナのような形をした小さな小屋が置かれているのをよく見かける。靴修理の職人たちの店だ。

 IT企業が増えたオフィス街では、スーツでなくカジュアルな服装にスニーカー姿の人が目立つようになった。新型コロナウイルス禍で在宅勤務が増え、職場に出勤する人も減り、靴修理の需要が激減。2019年にソウル市内に約1000軒あった店は、800軒台まで減ったという。

 日本から履いてきた革靴の底がすり減ってきたので、支局近くにある店に持ち込んだ。職人歴30年を誇る男性店主が笑顔で話し掛けてきた。「もしかして、日本人ですか? 最近の韓国人は、ここまで履き込んだ靴は、修理に出さずに捨ててしまう。日本のお客さんは物を大切にするね」。店主は皮肉ではなく、純粋に褒めてくれたのだと信じることにした。

 夕方の退勤時に靴を受け取りに行くと、靴底は張り替えられ、甲の部分の革もクリームで磨かれ、つやが戻っていた。70代後半という店主の職人技に、できる限り長くお世話になりたいと思った。 (相坂穣)