2022年06月20日

　ウクライナの南西に九州ほどの面積の小国がある。ワインで有名なモルドバだ。同国の中には、モルドバからの独立を主張している自称「沿ドニエストル共和国」がある。こちらもワインが有名だ。

　モルドバの首都キシニョフの酒店で沿ドニエストル産のワインを売っているか聞いてみた。若い男性店員は真顔で「当店にはありません」。「では市内で売っている店はありますか」。私の再びの問いに店員は表情を硬くした。「いえ、沿ドニエストル産ワインなど世にありません。モルドバで造られるワインは、モルドバワインのみです」

　青年の説明は正しかった。沿ドニエストルは、ロシア軍の助けを借りてつくった「独立国」。領土の一体性を損なっているモルドバにとって沿ドニエストル産ワインなど認められるはずもない。モルドバの一地方のワインと位置付けられるべきなのだろう。

　モルドバは経済をロシアに頼るので沿ドニエストル問題を解決できないままここまできた。でも本音は「主権を侵すロシアは嫌い」。そう、ワインの中に真実があった。　（小柳悠志）