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北京 怪しげな光の正体は

2022年06月23日

 北京郊外にある料理店の個室では早くも蚊が飛んでいた。政治の話題が続いたあと、正面の中国人が「あれはなんだ!」と部屋の隅を指さした。暗がりに怪しげな赤い光が見える。

 近づいてみると、コンセントに直接差し込むタイプの電熱式蚊取り線香。その人はほっとした様子で「盗聴器かと思ったよ」。こんなに目立つ盗聴器はないだろう、とふたりで大笑いした。しかしその人は続けて「彼ら(当局)が盗聴しようと思えば、簡単にできるはずだ」と深刻な表情に戻ってしまった。

 疑心暗鬼になるのも仕方がない。実際に当局による盗聴や情報窃取を肌身で感じる機会は増えている。先日は地方都市の弁護士に取材の約束をしたが、直前になって「当局者から『会うな』と命じられた」と断りの連絡があった。通信内容から取材を察知されたとみられる。

 習近平(しゅうきんぺい)国家主席には「一番」「あれ」などと隠語を使う中国人も少なくない。盗聴などに対する効果は疑わしいが、口にするのも恐ろしいといった感覚だろうか。先の料理店でもその人の統治はいつまでなのかという話題が、ため息交じりのヒソヒソ声で続いた。 (中沢穣)