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英マンチェスター 政治志す脱北者の夢

2022年08月02日

 英中部マンチェスター郊外を今月、取材で訪れた。緑の木々や小川のせせらぎが心地よい。中世の教会がたたずみ、モクレンの香りが漂うこの地区は、住民の9割が白人だ。ここでティモシー・チョウさん(34)は熱心に戸別訪問を続けていた。

 チョウさんは北朝鮮の出身。9歳の時、両親が自分を置いて脱北し、ホームレスの孤児となった。17歳で中国に脱北するも強制送還され、収容所で過酷な拷問を経験した。その後も幾多の困難を経て、20歳の時に英国へ亡命。がむしゃらに勉強し、学位を取って、市民権を得た。結婚し、家族もできた。

 十数年暮らした地域で今月、保守党から地方議員に立候補。人懐こい笑顔で献身的に活動を続け、健闘したが、残念ながら野党の牙城を崩せず、敗れた。

 「負けましたが、良い経験になった。次また頑張りたい」。気持ちのよい笑顔で報告してくれたチョウさん。夢はいつか、朝鮮半島が統一して、故郷に民主主義が根付くこと。その一助となるために、地域に恩返しをしながら、政治家として成長したい。彼の壮大な夢がかなう日を、心から願っている。 (加藤美喜)