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マニラ 運転手の切実な願い

2022年08月01日

 出発時刻が迫り、配車アプリを何度もクリックするが応答しない。マニラでの出張を終え、市街地から空港へ向かうタクシーを探していた夕刻。進む気がしない渋滞がよぎり、焦りが募る。「流し」はやめた方がいいと聞いていたが、やむを得ず通り掛かりを止めて乗り込んだ。

 「メーターが壊れている」とは予想通りだったが、言い値は相場の500ペソ(約1200円)。座席はバネがむき出し、シートベルトも壊れているのか手で押さえているほどで、年季が入った車体の振動もかなりのもの。

 動かぬ車列を横目に、強引に、駐車場や通行禁止のような脇道を縫う。途中「ガス欠だ。代金を先に」とガソリンスタンドに立ち寄るが、給油できたのは7リットル足らず。わずかな客を捕まえても、ガソリン代に消え、渋滞でそのガソリンも次の客を拾うまでに消えていく、という。

 フィリピンでは新たな大統領が決まったばかり。「この国はなかなか変わらない。せめて物価を抑えるか、渋滞をなくすだけでも」とこぼす。手荒な運転にハラハラしたが、余裕を持って到着できた。懸命に働く人たちに、変化の実感がもたらされることを。 (岩崎健太朗)