
「南国のクリスマスツリー」。誰ともなく声を上げた。森の中の2本の大木に電飾のような無数の白い光。その数はみるみる増え、やがて呼吸を合わせるかのように一斉に点滅を繰り返した。
パプアニューギニアのニューブリテン島キンベ近郊にある高さ10メートルほどの「ホタルの木」。地元のネーチャーガイド、ジョゼフさんは「きょうは月明かり。雨上がりで真っ暗な夜は、もっときれいだよ」とニッコリ。パプアニューギニアで約15年暮らす旅行会社PNGジャパンの上岡秀雄さん(41)は「ホタルの生息には自然条件はもちろん、幼虫のエサになるココナツの実も必要。つまり、人間が近くに暮らしてないといけないんです」と、豊かな自然と人間の調和に胸を張った。
キンベは世界有数のダイビングスポットでもある。シュノーケリング道具を借りて海の中をのぞくと、色とりどりのスズメダイやクマノミの群れ、巨大なサンゴが目の前に現れた。そして何より、青く透明な海が目にまぶしい。同行した同国政府観光局の山田隆さん(34)は「自然保護対策は必要ありません。世界各地で白化や死滅が報告されているサンゴも、(ここでは)自然に成長中。新種も毎年見つかるんです」。自然環境が保たれていて、何もしないことが保護活動のようだ。「この国では、あらゆる所に神が存在します。みなさんの言動は見られていますよ」と山田さん。約800の民族が暮らし、それぞれの信仰があるため、さまざまな動植物にも神が宿る。

キンベの東方、ラバウルは1994年の火山噴火で、町全体が薄茶色の灰に覆われた。すれ違う車の荷台に乗った人や道端を歩く人が、陽気に手を振ってくる。こちらも自然と顔がほころぶ。
高台にある旧日本軍艦の格納庫跡。暗いトンネルに7隻の朽ちた船が眠っており、第2次世界大戦時は約200メートル離れた海岸までレールがつながっていたという。村長らしき男性が寄ってきたので「アピヌン(こんにちは)」と握手を交わした。子どもたちにカメラを向けると、みな笑顔で目を輝かせる。名前を聞くと、母親らしい女性の後ろに恥ずかしそうに隠れた。
激戦地であったにもかかわらず、日本人に対するイメージは、そう悪くないようだ。日本兵のほとんどが飢えやマラリアで命を落としたため、住民が戦闘に巻き込まれることが少なかったことと、「けんかをしても次の日には、もう普段通り」という国民性なのかもしれない。帰り際、男性が「マンゴーを買わないか」と勧めてきた。大人のこぶし大の黄色い実が10個で2キナ(約70円)。皮を手でむいてかぶりつくと、南国のとろけるような甘さが広がった。
ニューギニア島の標高約1600メートルのゴロカ村を訪れ、「マッドマン(泥人間)ダンス」を見た。その昔、敵の民族から逃げ惑ううちに泥まみれになった姿を死者の霊と勘違いし、敵が退散したことにちなんだショーだ。重さ10キロはあろうかという素焼きのマスクをかぶり、スローな動きながらもユーモラスなしぐさで楽しめた。

「観光資源は人」といわれるだけあって、素朴で人なつっこい住民。日本からの観光客は年間約4000人にとどまる。だが、観光局は自然に手を加えることのない「持続性のある観光地」を目指している。もしここ南の島に大勢が訪れたら、「地球最後の秘境」が失われてしまうのでは? そんな不安は、すぐに打ち消された。山田さんは言う。「訪れるのはみな、パプアの神に招かれた善人ばかりだから」
文・写真 橋本拓哉
(2011年1月21日 夕刊)
メモ

◆交通
成田から首都のポートモレスビーまでは直行便で約6時間半。
水、土曜日の週2便運航。
問い合わせはニューギニア航空日本支社=電03(5216)3555
◆観光情報
パプアニューギニア政府観光局ホームページ
おすすめ

★ゴロカショー
毎年9月中旬に開催される国内最大のフェスティバル。
各地の民族が高原のゴロカ村に集い、それぞれに伝わる歌や踊りをコンテスト形式で披露する。
地元アサロの「マッドマンダンス」やクマン族の「ガイコツ人間の踊り」などがユーモラスで人気が高く、世界中から観光客が訪れる。
★ホットリバー(温泉)
国内各地に活動中の火山があり、その周辺の海や川では「天然温泉」を楽しめるところがある。
中でもキンベから牛の放牧場を抜け、未舗装の道を車で1時間弱走ったところにある清流は、まさに秘湯。
水温約39度で、スキューバダイビング後のオアシスになっている。
水着着用だが、あまりの気持ちの良さに裸で入る人もたまにいるとか。
★パプアニューギニアツアー
中日旅行会が5月下旬に予定。
問い合わせは同会=電052(231)0800