
青森から秋田県にかけて広がる白神山地は、世界遺産(自然遺産)に登録されて、もうすぐ20周年を迎える。広さは13万ヘクタールといわれ、沖縄本島よりも大きい。このうち世界遺産に登録されたのは、ブナの原生林が残る中心部分の1万6971ヘクタール。あまりにも広く、数日の旅行で全てを回るのは不可能と悟り、ポイントを絞って散策した。
山頂が登録地域にあり、周辺が見渡せる「二ツ森(1、086メートル)」を第一の目的地と決め出発。ありがたいことに標高約900メートルまで車で行けた。車を止め、「ここまで来れば頂上に着いたも同然」と思いながら登り始めたのだが、甘くはなかった。登山道は枕木などで整備された部分もあったが、倒木もあり、ぬかるみが多く滑りやすい。急斜面では、木の枝や根をつかまないと進めない。足元ばかりに気を取られていると、頭に木の枝が当たり、痛い思いを繰り返した。
頭上を覆うブナ林が途切れると頂上に到着。天を仰ぐと、青空をゆっくりと白い雲が流れていた。耳を澄ますと沢の水音が遠くに聞こえた。眼前には、手つかずのブナ林がどこまでも広がる。ありのままの大自然を眺めながら、しばらく時がたつのを忘れていた。

翌日は、白神山地で最も観光客が多い「十二湖(じゅうにこ)」へ。33の湖が点在するのだが、近くの大崩山から見下ろすと12の湖が見えることから、この名がついたという。最も有名なのが「青池」。周囲の林間から差し込む光が、そのときの天候によってさまざまな神秘的な表情を見せてくれる。
池の一部が水鏡になり、周囲の木々を鮮やかに映し出していた。同行してくれたガイドの兼平義彰さん(64)に尋ねると「青池は湧き水で水温9度。藻もほとんど繁殖しないので透明度が高く、太陽光の入る角度によって色が変化する」という。あまりの美しさに何時間でも眺めていたい気持ちになった。
このあと大木のブナが続く林を抜け「沸壺(わきつぼ)の池」に向かった。池の数十メートル上の斜面からは、湧き沢となって水が池に流れ込んでいた。名水100選に選ばれるほどのきれいな水。水飲み場で味わうと、冷たく爽やかな感覚が口いっぱいに広がった。
次に向かったのは、山の側面が崩落し岩肌がむき出しになっている「日本キャニオン」。幅約1.5キロ、最大高低差220メートルという岩肌は、「おおーっ」とうならせるほどの大きさ。米国のグランドキャニオンにちなんで名付けられたそうだ。

最後に訪れたのは、白神山地最大といわれる「まほろばのブナ」。小さな沢を渡り、ロープにつかまりながら斜面を登ると巨大な木が目に飛び込んできた。幹回り5.45メートルの圧倒的な存在感で「屋久杉」を連想させた。認識するには少し時間がかかったが、まぎれもないブナだった。両手を広げ幹を抱えようとしても手は届かない。地上3メートルあたりから太い幹が四方に分かれていくさまは、まさに生命の力強さを体現しているかのようだった。
文・写真 桜井祐二
(2013年9月13日 夕刊)
メモ

◆交通
白神山地へは中部国際空港から秋田空港まで約1時間半。
空港からJR秋田駅までバスで約30分。
JR名古屋駅からは新幹線で秋田駅まで約6時間。
秋田駅からJR在来線に乗り換え十二湖駅までは2時間。
◆問い合わせ
青森県観光連盟=電017(735)5311。白神山地ビジターセンター=電0172(85)2810
おすすめ

★不老ふ死温泉
青森県深浦町の海岸にある宿泊施設。
夕日を眺めながら入れる波打ち際の露天風呂が有名。
近くには漁港があり、食事は新鮮な魚介類が多い。白神山地のガイドも紹介してくれる。
電0173(74)3500
★マグロステーキ丼
刺し身で食べられるマグロを生や軽く焼き、丼に載せて食べる。
青森県深浦町内の7店舗で食べられる。値段は一律で1200円。
★あわび丼
国道101号線沿い、JR五能線あきた白神駅前の宿泊施設ハタハタ館=電0185(77)2770=のレストランのメニューで2180円。
小ぶりなアワビ1匹を刺し身にしてご飯の上に載せている。
★暗門の滝
白神山地の青森県側、世界遺産登録地域にある。滝を目指してのトレッキングコースは白神山地の中でも人気が高い。