
1000メートル級の山々に囲まれた高原を吹き抜ける、ひんやりと澄んだ風が心地よい。韓国北東部の江原道平昌郡(カンウォンドピョンチャングン)にある「アルペンシアリゾート」。アジアのアルプスと呼ばれるこの地が2018年2月、冬季五輪の主会場となる。
平昌は6割以上が標高700メートル以上の高原で占められている。フレッシュな空気、清流せせらぐ環境を求め、冬はスキー、夏は避暑と、韓国を代表するリゾートとなっている。日本でいうと、長野県の別荘地・軽井沢のイメージに近い。
ソウルからバスに乗り、高速道路を走ること2時間半で到着した。ひときわ目を引く、スキー競技の花形が繰り広げられるスキージャンプ台に向かった。K点が98メートルのノーマルヒル、125メートルのラージヒルを備え、その規模は国内最大という。スカイラウンジもあり、10年のオープン以来、この地のシンボル的存在となっている。現在は五輪の国際規格に合わせた補強工事を進めている。
モノレールに乗り、ノーマルヒルのスタート地点まで上がってみた。標高875メートルからリゾートを一望する。バイアスロン、クロスカントリーといった五輪の舞台になる施設が点在し、まさにウインタースポーツの殿堂だ。屋内プールのあるウオーターパーク、ゴルフ場、コンサートホールまでも見える。リゾートを運営する江原道開発公社五輪事業団課長の崔一弘(チェイルホン)さん(57)は「1年中いつ来ても、退屈せず過ごせますよ」と語る。

車でさらに1時間、平昌の東にある室内競技開催地の江陵(カンヌン)市も訪れた。重機がせわしなく行きかい、田畑だった土地を造成し、建築資材の搬入を進めている。雪の結晶を模したような、八角形の男子アイスホッケー場が完成間近だった。さらにフィギュアスケート、スピードスケート、カーリングなど、全部で5つの競技場を新設するという。
国道沿いでは、線路を敷設する光景も見られた。ソウルから平昌、江陵を結ぶ韓国高速鉄道(KTX)の新路線が来年に開通する予定になっている。首都圏から車で3時間かかる各会場に、1時間程度で向かうことができる。五輪という一大イベントに向かい、町が変わっていく様子を感じる。
近くで1月に開館した「五輪広報館」にも立ち寄った。競技や大会決定の経緯を説明するパネル展示のほか、競技に臨む選手を再現した等身大の人形が迎える。案内してくれたのは、大阪に3年間留学し、日本語が堪能な成多炯(ソンダヒョン)さん(27)で、「五輪に向けて気分を高めてくださいね」と、競技を疑似体験できる4D(四次元)体験館を勧めてくれた。3D眼鏡を掛けて、映像に合わせ前後左右に揺れる座席に腰掛け、選手になりきる。スキージャンプ、ボブスレー、スノーボード、マウンテンスキー。思わず振り落とされそうになる演出に興奮した。

韓国の紙幣の肖像にもなっている偉人親子ゆかりの地、烏竹軒(オジュッコン)も訪れた。16世紀朝鮮王朝時代の儒学者、栗谷李珥(ユルゴクイイ)と書画家の母、申師任堂(シンサイムダン)が暮らした家だ。宮殿の派手さはないが、離れのような小さな造りに儒教の国ならではの謙虚な印象を受ける。近くにカラスのような黒い竹が茂っていたことが、その名の由来。今も竹林があり、名残をとどめている。
「チャングムの誓い」のイ・ヨンエさんが師任堂を演じるドラマが制作され、撮影があった烏竹軒を訪れる人が増えているという。日本でも放映が予定されており、五輪とともに再び「韓流」への関心を高めるのに一役買いそうだ。
文・写真 河崎裕介
(2016年5月20日 夕刊)
メモ

◆交通
中部国際空港や成田空港などから仁川まで直行便がある。
仁川とソウルからは、アルペンシアリゾートまで高速バスで2時間半~3時間。
◆問い合わせ
韓国観光公社東京支社=電03(5369)1755、
同公社名古屋支社=電052(223)3211。
ツアー情報は中日ツアーズ=電052(231)0800
おすすめ



★韓国三十三観音聖地巡礼
日本の四国八十八カ所巡礼に倣い、2008年に選定。
韓国全土からえりすぐった古刹(こさつ)を巡り、
納経帳に朱印を受け取る。代表的な韓国仏教は曹渓(チョゲ)宗で、
総本山はソウルにある曹渓寺。
中日ツアーズでは巡礼ツアーも組んでいる。
★平昌の韓国伝統飲食文化体験館
本場のビビンバづくりをはじめ、韓国の伝統料理文化が体験できるスポット。
宮廷料理の歴史を知る展示や、チマ・チョゴリに代表される韓服の体験も楽しめる。
★ハングァ
穀物に蜂蜜を加えて油で揚げるなどした韓国の伝統菓子。
江陵には、実際にお菓子づくりができる体験館があり、
甘くパリッとした食感を楽しめる。