
北陸新幹線に乗り、新高岡駅(富山県高岡市)で降りると、観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」がゆっくりと城端(じょうはな)線ホームに入ってきた。濃い緑色の一両編成。旧国鉄車両を改造したディーゼルカーだ。
車名はフランス語の「美しい山と海」を訳したもの。愛称「べるもんた」と呼ばれている。車内には同県南砺(なんと)市の伝統工芸品・井波彫刻を展示。つり革を見ると持ち手は高岡銅器をイメージした銅箔(どうはく)で装飾されていた。
窓は大型で、額縁をイメージしたもの。片側の席はカウンターになっており、昼食は予約していた「ぷち富山湾鮨(ずし)セット」にした。板前さんが車内で握ってくれたものだ。雄大な立山連峰を見ながら食べる新鮮な魚のすしに、とてもぜいたくな気分になった。

銅器の全国シェア約95%。鋳物の町として知られる高岡をのんびり歩くことにした。鋳物は加賀藩二代藩主・前田利長が高岡に隠居の城を築く際、繁栄を図るために7人の鋳造師を現在の高岡市金屋町に呼び寄せたことが始まり。初めは鍋や鉄製の農具などを生産、江戸中期から銅鋳物が盛んになった。
高岡では毎年5月1日に、7つの御車山(みくるまやま)と呼ばれる山車を引いて市内を練り歩く「高岡御車山祭」が行われる。祭りに使われる御車山は、豊臣秀吉が聚楽第(じゅらくだい)に後陽成天皇を迎えた際に使用したものを初代藩主・利家が拝領し、それを継いだ利長が高岡の町民に与えたのが始まりとされる。御車山祭は同じ県内の城端曳山(ひきやま)祭、魚津たてもん祭りとともに、昨年末に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。
2015年に完成した「高岡御車山会館」でその御車山が展示されていると聞いて、訪れることにした。1階に展示されていた御車山は人の身長ほどある車輪にも装飾が施されており、高岡ならではの金工・漆工・染織の優れた技術が重厚感を出しながらも華やかさも備えていた。2階にはお囃子(はやし)体験コーナーや大型スクリーンによる映像で、祭りの様子に浸ることができる。
「お祭りの日が雨だと中止になるんですよ」と御車山会館の石田康男さん(62)。山車自体が文化財のための配慮だそうだ。「御車山が通るため、路面電車の架線も外します」と聞いてびっくり。

高岡鋳物の技術を象徴する高岡大仏。高さは約16メートル。1933(昭和8)年に33年の月日を経て市民の寄進により高岡の職人が建立した。歌人・与謝野晶子が「美男」と評した逸話も残る。現在の大仏は3代目。台座の中には焼失を免れた2代目の大仏の頭部が安置されていた。
富山市から友人家族と拝観に来た吉田真理子さん(41)は「大きくて掃除が大変そう」。娘の理乃ちゃん(5つ)は「顔がかっこいい」と初めて見る大仏に満足そうだった。

高岡大仏のすぐ近く、北東にあるのが高岡城跡。利長の隠居城は、利長の死と幕府の一国一城令によりわずかな期間で廃城となった。歩いてみると巧みに配置された郭(くるわ)を広い水堀で囲み、隠居の城にしては広くてかなり立派に感じる。廃城後も建物以外は壊さず整備されてきたという。本丸広場には騎馬姿の利長銅像があった。
加賀藩は幕府に恭順の姿勢を見せつつ、豊臣恩顧の外様大名として、「いざ」というときの備えは怠らなかった。利長が町を開いて約400年。伝統文化を引き継ぐ市民の心意気が感じられる旅だった。
高岡大仏でお願いしたこと。「5月1日、晴れますように」
文・写真 須藤英治
(2017年1月13日 夕刊)
メモ

◆交通
あいの風とやま鉄道・高岡駅下車。北陸新幹線・新高岡駅から高岡駅までシャトルバスが出ている。
ベル・モンターニュ・エ・メールは土曜が氷見線、日曜が城端線で運行。
1日2往復。
全席指定。
3月以降は時刻表参照。
◆問い合わせ
高岡市観光協会=電0766(20)1547
おすすめ

★ぐい呑み鋳造体験
約400年続く鋳造技術を実際に体験。
スズ製のぐい呑みを鋳型から研磨まで2時間かけて作る。
完成品は記念に持ち帰れる。
要予約。
4320円。
HANBUNKO=電0766(50)9070
★高岡市立博物館
国指定史跡・日本100名城の高岡城跡(高岡古城公園)にある。
高岡城や前田利長などの歴史や、民俗・伝統産業を分かりやすく紹介。
入館無料。
原則月曜休館。
電0766(20)1572
★藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー
高岡市美術館内にある。
ドラえもんの作者で知られる故藤子・F・不二雄さんは高岡市生まれ。
「どこでもドア」が展示室の入り口になっている。
愛用の品や貴重な原画の展示も。
500円。
原則月曜休館。
電0766(20)1170