
1月中旬、空路で青森市を訪れた。早朝だったが青森空港はすっかり除雪されていた。さすが「ホワイトインパルス」の名を誇る空港除雪隊。55ヘクタールものエリアを約40分で除雪する作業の見学ツアーもあるそうだ。
市南東部の八甲田へ向かった。冬の八甲田は、山形・蔵王にも劣らぬといわれるアオモリトドマツの樹氷、ふかふか雪の樹林帯を滑るバックカントリーツアーが国内外から人気を集める。八甲田ロープウェーの山麓駅からゴンドラに乗り込んだ。枝々を純白に装ったブナ林が広がる。「カモシカやテンが見えることもありますよ」。同社事業部次長の菊地一文さん(51)が教えてくれた。10分で標高1,320メートルの田茂萢(たもやち)岳山頂公園駅に着いた。白銀の八甲田連峰を背にしたスノーモンスターを期待したのだが、ガスに覆われて視界が利かない。寒風にさらされ、早々に退散した。
山麓の酸ケ湯(すかゆ)温泉へ向かうと硫黄臭がしてきた。国民保養温泉地の第1号。総ヒバ造り160畳の「千人風呂」で知られ、館内には酸ケ湯を愛した郷土の板画(はんが)家、棟方志功の作品があちこちに飾られている。神奈川県藤沢市から湯治に訪れた大学客員教授の後藤光さん(76)が、自炊場で夕食の準備をしていた。12回目で今回は4泊5日。魅力を尋ねると、さらりと「一にお湯の良さ、二に古色蒼然(そうぜん)とした雰囲気、三に自由さだね」。出会った湯治客同士で鍋を囲むこともあるそうだ。
酸ケ湯は混浴を守り伝えるが女性専用の時間もある。が、冬の浴場はその必要もないほど湯気に包まれていた。白濁の湯船につかっていると、向こうから女性の声が聞こえてきた。どうも落ち着かない。「見えようと見えまいと、混浴は日本の温泉文化だからね」。いつの間にか湯船にいた後藤さんが笑った。

温泉のにおいとぬくもりをまとい、市街地へ下った。青森県や市は、2010年12月の東北新幹線新青森駅開業に合わせ、かつて青函連絡船が発着したベイエリアに青森の魅力を発信する施設を整備した。市文化観光交流施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」もその1つ。毎夏のねぶた祭に出陣し、大賞などを取った大型ねぶた4基が展示してある。幅9メートル、奥行き7メートル、台車を含め高さ5メートル。武者や大蛇が台車上でうねる。
「跳人(はねと)やってみませんか」。スタッフの神哲也さん(40)に誘われた。跳人とは隊列の先頭で跳ねて踊る人のこと。「ラッセラー、ラッセラー」。掛け声に合わせ、体を傾けてケンケンで跳ねてみた。浮き浮きする。ついでに締め太鼓も。ねぶたを背に細くしなるバチで無心にたたいていると一瞬、本物の祭りに身を置いている錯覚に陥った。
翌朝、青空が広がった。八甲田ロープウェーの菊地さんに電話を入れると「よく見えてますよ」の返事。思い切ってもう一度足を運んだ。山の天気は変わりやすい。祈りながら山頂公園駅に着くと、垂れ込めてきた雲の下に陸奥湾や下北、津軽の両半島が見えた。その先には北海道・松前半島も。眼下の大パノラマに外国人スノーボーダーが歓声を上げながら滑り降りていった。

旅の終わり近く、市郊外にある縄文の特別史跡「三内丸山遺跡」を訪ねた。大型掘立柱(ほったてばしら)建物をはじめ復元された建物が雪の台地に並び立つ。「5500~4000年も前にここに集落があったんですよ。すごいなあって、うれしくなってしまうんです」とボランティアガイドの佐藤恵さん(56)は声を弾ませた。津軽が授かった自然と歴史の恵みへの感謝にも聞こえた。
文・写真 有賀博幸
(2017年2月24日 夕刊)
メモ

◆交通
青森空港へは県営名古屋空港から1時間20分、羽田空港から1時間15~20分。
東北新幹線は東京駅から新青森駅まで「はやぶさ」で3時間余。
八甲田、酸ケ湯温泉へは青森駅などからJRバスが運行。
青森市内の主要観光施設の周遊はシャトル・ルートバス「ねぶたん号」が便利。
◆問い合わせ
青森市観光交流情報センター(JR青森駅前)=電017(723)4670
おすすめ


★のっけ丼
丼ご飯に好みの刺し身や総菜を載せて作るオリジナル丼。
JR青森駅から徒歩5分、青森魚菜センターで食事券(5枚つづり540円、10枚つづり1080円)を購入。
丼にご飯を求めた後、場内の約25店を巡り、好きな具材を載せてもらう。
午前7~午後4時、火曜定休。電017(763)0085
★津軽三味線を聴く
中心市街地の郷土料理店、民謡酒場など5店ほどで。
県観光物産館・アスパムでは「津軽三味線音色頒布(はんぷ)会」が午前11時半と午後2時から約30分。無料。
電017(735)5311
★青森県立美術館
建築家の青木淳氏が、隣の三内丸山遺跡の発掘現場に着想を得て設計。
同県弘前市出身の現代美術作家奈良美智(よしとも)氏の「あおもり犬」は館のシンボルで来館者に人気。
原則第2、4月曜休館。
電017(783)3000