
今、平昌(ピョンチャン)と言えば、開催まで1年を切った2018年冬季五輪・パラリンピック(2月9~25日、3月9~18日)のことだろう。でも、それだけではない。豊かな自然と伝統食も体感できるリゾートだ。
五台山(オデサン)国立公園にある月精寺(ウォルジョンサ)の山門をくぐると、木立の道が長く延びていた。地面を踏みしめながら、冷たく澄んだ空気を深く吸い込んでみる。樹齢500年というモミの林のこの道は、最近まで放送された人気ドラマのロケ地にも使われたという。森林浴さながら約1キロ歩くうちに、旅の高揚感は穏やかな心持ちに変わっていた。
月精寺は新羅時代の643年の創建とされ、広い敷地内には国宝の八角九層石塔など多くの文化財がある。宿泊して寺の生活を体験できる「テンプルステイ」も実施していて、日本をはじめ海外からの利用者も。一室には、ドラマ「冬のソナタ」で韓流ブームに火を付けた俳優ペ・ヨンジュンさんが滞在した時の写真も飾られていた。
「テンプルステイが縁で僧侶になった人もいるんですよ」。地元の文化観光解説士、李柱進(イチュウジン)さん(61)が説明する。李さん自身も、寺の魅力に強くひかれた一人。ソウルに住んでいた会社員時代の2004年、朝3時半に起きる修行生活を体験し、「感動して」移り住んだそうだ。

月精寺から20キロほど南西の山あいに位置する韓国伝統飲食文化体験館「静江園(チョンガンウォン)」を訪ねた。建物の前にずらりと並ぶ大きな甕(かめ)が壮観だ。しょうゆやみそ、コチュジャン(唐辛子みそ)などを保存するためで、500ほどもあるという。
体験した伝統食作りは、かつて宮廷料理として親しまれたという「宮中(クンジュン)トッポッキ」。タマネギ、ズッキーニ、ピーマン、ニンジン、シイタケ、豚肉を別々に塩で炒めてから合わせ、しょうゆ、ごま油、水あめでさらに炒める。トッポッキ、モヤシも加えて完成だ。
見た目通りあっさりした中にもこくがあり、優しい味だった。体験メニューはビビンバやチヂミ、キムチなどの中から選べるほか、体験館では伝統の韓定食を味わったり、宿泊したりすることもできる。
江陵(カンヌン)にある「ガルゴル韓菓体験展示館」では、「カンジョン」と呼ばれる伝統菓子作りを見学した。米を酒に入れて発酵させてから餅をつき、油で揚げる。米やトウモロコシを煮て作ったシロップをかけ、揚げた米をまぶして出来上がる。
糸でつなげて高く積み上げると縁起が良いとされ、祭りやめでたい行事の時、お供えしてから食べるという。しっとり軟らかな食感で、香ばしい風味とほのかな甘みが口に広がる。この道一筋の名人、崔鳳●(チェボンソク)さん(72)は「手作りの味をずっと伝承していきたい」と話す。

18年のテスト大会を兼ねて、フィギュアスケートの四大陸選手権が行われていた「江陵アイスアリーナ」も訪れた。ベレー帽のような円形の白い外観が、赤や緑、紫、青と色とりどりにライトアップされ、夜空に浮かび上がる。
館内では、選手たちの熱戦の傍ら、18年大会のマスコットで白い虎の「スホラン」と、ツキノワグマの「バンダビ」の着ぐるみが、家族連れなどに記念撮影をせがまれていた。
来年の今ごろは、大会の期間中。世界各地から訪れた人たちが、競技だけでなく、地域の自然と食に触れているだろう。
文・写真 北爪三記
※●は禾へんに石
(2017年3月17日 夕刊)
メモ

◆交通
羽田空港や成田空港から仁川国際空港までは、直行便で約2時間40分、中部国際空港からは約2時間。
ソウルから高速バスで、平昌は約2時間、江陵は約2時間半。
◆問い合わせ
韓国観光公社東京支社=電03(5369)1755。
同公社名古屋支社=電052(223)3211
おすすめ


★ミュージアムSAN(サン)
江原道の南西部・原州(ウォンジュ)に2013年5月オープン。
SANは、Space Art Natureの略で、標高275メートルの山頂に約66万平方メートルの敷地が広がる。
設計は建築家安藤忠雄氏。
水や花、石をテーマにした3つの庭や、光と空間を題材とする芸術家ジェームズ・タレル氏の特別展示などがある。
★江陵中央市場
市民の台所とも言うべき活気あふれる常設の市場。
露店も含め300以上の店が並び、鮮魚や干物などの水産物、肉、野菜、総菜などの食料品や日用品がそろう。
最近流行しているという、鶏の唐揚げのような食べ物店には長い列も。
★烏竹軒(オジュッコン)
江陵市内にあり、韓国で最も古い住宅の一つ。
黒い竹がたくさん生えている、との意味。
16世紀の儒学者・栗谷李珥(ユルゴクイイ)と、その母で芸術家の申師任堂(シンサイムダン)が暮らした。
母子ともに紙幣の肖像になっていて、母は5万ウォン札、子は5000ウォン札。