
漆喰(しっくい)の白い壁と杉を焼いた腰板。屋根を見上げると赤茶色の石州瓦。蔵と通りを隔てた小川には、緩やかに反った石の橋がかかっている。時が止まったままのような町並みを歩くと、行き交う商人の姿や人々の営みが目に浮かんでくるようだ。
鳥取県の中央に位置する倉吉市。かつて城下町、陣屋町として栄え、400メートルほどの通りに土蔵や町家など江戸時代末期から明治の建物が並ぶ。どの建物も造りが細長い。10メートルほどの間口に対し、奥行きは50メートルはあろうか。「当時は間口に対して税がかけられていた。だから細長いんです」。ガイドの小原万伎子さん(76)が、説明してくれた。
昨年10月の鳥取県中部地震では、土蔵群も壁が落ちるなどの被害を受けたが、修復はほぼ完了。春になり、観光客も戻ってきたという。14の蔵や町家を「赤瓦」と名付け、土産物店やカフェに改装して活用。伝統工芸「倉吉絣(がすり)」を織る作業風景を見学できる工房もある。のんびり流れる時間に身を任せ、2時間も歩けばじっくりと見て回れる。「地味な街だし、目玉はありません」。小原さんは言う。「でも、懐かしい町並みがそのまま残っている。郷愁をそそるでしょう」。続いた言葉にうなずいた。
日本の原風景とも言える倉吉の街並みは、最近では若者の注目も集めている。インターネット上で人気の音楽配信企画「ひなビタ♪」。その中で女子生徒がバンドを組んで町おこしするアニメの舞台となっている架空の「倉野川市」は、倉吉がモデルとされ、土蔵などそっくりな風景が登場する。ファンが「聖地巡礼」として訪れ、3月に開いた関連イベント時は近隣のホテルが軒並み満室になったほど。倉吉市は倉野川市と姉妹都市の提携を結び、観光案内所では倉野川市の住民票も発行してもらえるそうだ。街を歩いているとパネルになったキャラクターに出合える。

山陰の自然にも触れようと、倉吉から少し足を延ばし、琴浦町へ。向かったのは「鳴り石の浜」。その名の通り、石が鳴る音が楽しめるという海岸だ。約500メートルにわたって大小の石が無数に転がっている。数センチからこぶしサイズ、大きいものは30センチほど。石を踏みしめて波打ち際に近づいた。
「ザップーン、カラコロカラコロ・・・」
打ち寄せては引いていく波が石を揺らし、ぶつかり合う。雄大な日本海の景色と心地よい石の音色に、しばし時を忘れた。潮の流れによって石の大きさが四季ごとに異なり、音も微妙に変化する。「よく鳴る」ことから「良くなる浜」。石に願い事を書いて海に投げるとかなうという。

名古屋からだと言うと、「ぜひ訪れてほしい場所がある」と勧められたのが、海岸から少し高台に上がった神崎神社。彫刻の装飾が社のあちこちに施され、牛や馬、七福神、浦島太郎や竜宮城まである。
拝殿の正面に立ってみる。「上を見て」と言われ、顔を上げると天井に大きな竜の彫刻が。精緻に彫り込まれた竜は、今にも飛び出してきそう。曲がりくねった竜の体を測ってみたところ、体長は16メートルもあったという。琴浦町観光協会の松岡義雄会長(69)は「これだけの長さの竜の彫刻は全国でも珍しいでしょう」と胸を張った。
地元では開運の昇竜として親しまれている。竜といえば、中日ドラゴンズ。ファンのみなさん、鳥取観光の合間に必勝祈願をしてみては。
文・写真 中村彰宏
(2017年4月28日 夕刊)
メモ

◆交通
倉吉へは山陽新幹線姫路駅からJR特急「スーパーはくと」で約2時間。
琴浦町までは山陰線を利用。
鳴り石の浜、神崎神社は赤碕駅で下車。
◆問い合わせ
倉吉白壁土蔵群観光案内所=電0858(22)1200、
琴浦町観光協会=電0858(55)7811
おすすめ

★塩谷定好写真記念館
琴浦町出身の写真家、塩谷定好の生涯を作品や遺品でたどる。
絵画のような「芸術写真」で大正から昭和にかけて活躍した。
回船問屋だった生家を活用し、撮影に使っていたスタジオも見学できる。
建物は国の文化財。
入館料一般300円(中学生以下無料)。
火曜休館。電0858(55)0120
★牛骨ラーメン
牛の骨でだしを取り、透き通ったスープが特徴。
あっさりとした味わいに、こくと甘みが広がる。
戦後に鳥取県中部に広まった。
琴浦町にある老舗、香味徳は東京や米ハワイにも支店がある。
電0858(55)0003
★三徳山三仏寺(三朝町)
断崖に立つ国宝「投入堂(なげいれどう)」で知られる。
昨年10月の鳥取県中部地震以降は入山が禁止されていたが、参道を整備し、4月18日から参拝が再開された。
★関金温泉
倉吉市南部にあり、今年で開湯1300年を迎える。日本有数のラジウム含有量を誇り、「白金の湯」と呼ばれる。
旅館のほか、日帰り入浴施設「せきがね湯命館」もある。
電0858(45)2000