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大村、諫早市

大村、諫早市 長崎県 体験の旅路 物語紡ぐ

包丁づくりを実演する田中勝人さん。観光客の体験プログラムもある=長崎県大村市で

包丁づくりを実演する田中勝人さん。観光客の体験プログラムもある=長崎県大村市で

 大村湾の海上にある長崎空港は幾度か利用した。たいていは空港から高速バスで長崎市か、長崎県佐世保市方面へ向かうかのどちらかだった。「空港の近くにもいいところがありますよ」という県の観光担当者に促され、これまでは通過するだけだった県央地域に出掛けた。

 空港から車で約10分。お膝元の大村市内には、今では珍しい鍛冶屋の「田中鎌工業」がある。かつては長崎街道の松原宿があった。平家の落人の刀鍛冶を祖とするという鎌、包丁などの刃物生産は約500年の歴史を持つとされる。以前は17軒もの鍛冶屋があったが、今では3軒になった。地域ブランド「松原刃物」は県伝統的工芸品でもある。

 作業服で迎えてくれた田中勝人さん(55)は4代目。「ほとんどが手作業で機械化していない分、小回りが利き、鋼はより硬いのが使える」と話す。鋼が硬いと機械が傷んでしまうのだという。東京の有名料亭などからの注文もある。鉄に鋼を挟み、約1000度に熱した後、ハンマーの機械を使って延ばしていく。火花が飛び、少しずつ形をなしていく。観光客が包丁などを製作する体験プログラムもある。

収穫したイチゴでイチゴ大福づくりに取り組む。体験が旅のストーリーを生む=長崎県大村市の「おおむら夢ファーム シュシュ」で

収穫したイチゴでイチゴ大福づくりに取り組む。体験が旅のストーリーを生む=長崎県大村市の「おおむら夢ファーム シュシュ」で

 年間約49万人と同市でトップクラスの集客を誇る「おおむら夢ファーム シュシュ」へ回った。「シュシュ」はフランス語でかわいい、といった意味。まずは温室でイチゴ狩り。そして、収穫したイチゴでイチゴ大福づくりなどを楽しむ。

 専務取締役の山口純典さん(58)はナシ農家。20年ほど前、山口さんら農家4人で、「近くに空港があるから何かで人を集めたいね」とビニールハウスの農産物直売所、続いて小さな店舗で手づくりジェラートを売り出した。これが評判を呼び、出資者を集めて8人で現在地にレストラン、洋菓子工房なども備えた農業交流拠点シュシュを2000年に開設した。

 山口さんらが掲げるのが「素通りの町からストーリーのある町へ」。当初の仲間の一人である山口成美社長のお気に入りのキャッチフレーズという。いま、シュシュが事務局となって力を入れているのが農家民泊だ。9軒が参加し、うち1軒は兼業農家でもある鍛冶屋の田中さんの家。一人一泊朝食付きで5500円。果物、野菜の収穫も体験する。体験を通じ、自分にしかない旅のストーリーを紡いでいく。

おとぎの国に迷い込んだよう。国道207号沿いに立つフルーツバス停=長崎県諫早市小長井地域で

おとぎの国に迷い込んだよう。国道207号沿いに立つフルーツバス停=長崎県諫早市小長井地域で

 空港からの通過客の足を止めようという取り組みは隣の諫早市でも。市中心部から国道207号を佐賀方面へ向かい、有明海沿いの小長井地域に入ると、道路沿いのバス停に色の鮮やかなメロンやイチゴなどをかたどったフルーツバス停が目に入る。おとぎの国に迷い込んだようだ。それもそのはず。諫早観光物産コンベンション協会事務局長の平吉敦さん(51)が「グリム童話のシンデレラに出てくる『カボチャの馬車』がアイデアのもとになった」と種明かしをする。

 1990年の長崎旅博覧会の時、訪れる人の心を和ませたいと当時の小長井町が造った。テレビのコマーシャル映像などにも使われ、話題を呼んだ。昨年色の塗り直しが行われた。5種類の野菜、フルーツで16基がある。全部を写真に収めようと車を止めて撮影している姿も見られた。フルーツバス停が目的で訪れる人も増えているという。

 同市高来町の洋菓子店「お菓子のいえ CoCoLo」ではフルーツバス停をモチーフにした焼き菓子を作って販売している。代表の岡村佐己子さん(36)が考案し、2年前行われた市内のコンテストで優秀賞を得た。「年配の人から若い人までいろんな方が来てくれます。町の魅力づくりにつながればうれしいです」と笑顔を見せた。

 文・写真 朽木直文

(2018年3月23日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
長崎空港からシュシュへは車で約15分。
諫早駅前へは空港から島鉄バス、長崎県営バスで約30~50分。
同駅前からフルーツバス停へは県営バスの「県界」行きなどに乗り、一番手前の「殿崎」バス停(スイカ形)までは約30分。

◆問い合わせ
大村市観光コンベンション協会=電0957(52)3605、諫早観光物産コンベンション協会=電0957(22)8325

おすすめ

眼鏡橋

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かば焼き定食「梅ご膳」

かば焼き定食「梅ご膳」

★コーヒー屋 なみのうお
夕日が美しい大村湾の絶景スポット。
大村市日泊町の道路沿いのコンビニに併設してあり、川原公さん(43)が夫婦で営む。
「なみのうお」は湾に生息するスナメリのこと。
少し甘めのコーヒーと残照に染まる湾の海面がなんともロマンチック。
電0957(53)7031

★眼鏡橋
諫早市の諫早公園内にある。
江戸期の1839年に築造された石造二連アーチ橋で、約50メートルと長崎市の眼鏡橋の約2倍。
国の重要文化財。
もとは公園そばの市中心部を流れる本明川に架かっていたが、1957年の諫早大水害の後に移設された。
日本で一番美しい石橋といわれる。

★諫早名物「楽焼うなぎ」
諫早のうなぎのかば焼きは、二重底になった楽焼の器を使い、仕上げに蒸すのが特色。
ほどよく蒸されてふっくらとした独特の舌触りが生まれる。
創業1883年の老舗「北御門」ではかば焼き定食「梅ご膳」が2160円。
電0957(22)0167

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。