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木彫りの里・井波

木彫りの里・井波 富山県南砺市 漂う木の香 響く槌音

井波彫刻の歴史を開いた瑞泉寺の山門=富山県南砺市井波で

井波彫刻の歴史を開いた瑞泉寺の山門=富山県南砺市井波で

 富山に「日本一の木彫りの里」があると聞いて、北陸新幹線に乗って訪ねてみた。お目当ての井波(いなみ)の町は、チューリップや散居村(さんきょそん)で知られる砺波(となみ)平野の南端にあった。八乙女(やおとめ)山の裾野に広がり、現在は南砺(なんと)市の一角を占める。

 中心部の交通広場に降り立つと、眼前には「信仰と木彫りの里 井波」と彫り込まれた巨大な木彫りの塔。そして、「井波彫刻」のシンボルの一つ・獅子頭が「ようこそ井波へ」と日本語・英語・中国語で出迎えてくれた。

 観光ボランティアガイド「井波の風」の楠順子さん(66)によると、井波の町は、14世紀末に本願寺第5代綽如(しゃくにょ)が北陸の拠点として建立した瑞泉寺(ずいせんじ)の門前町として発展。18世紀後半に瑞泉寺が火災で焼失した折、再建のために京都から派遣された御用彫刻師の技を、井波の宮大工たちが受け継ぎ、「井波彫刻」として昇華させたとのことだ。

 瑞泉寺に向かう石畳の八日町通りを歩くと、鑿(のみ)を振るう彫刻師たちの工房が軒を連ね、木槌(きづち)の音が聞こえてくる。歴史を感じさせる街並みには、そこかしこに木彫りの七福神や四天王が鎮座し、今にも動きだしそうな竜がにらみを利かす。近ごろは、木彫りの猫が何匹も軒先などに隠れているようになった。家々の表札や店々の看板はもちろん、公衆電話ボックスまで木彫りで縁取られている。

100本以上の鑿や彫刻刀で木彫額に取り組む伝統工芸士の野村清宝さん=富山県南砺市井波で

100本以上の鑿や彫刻刀で木彫額に取り組む伝統工芸士の野村清宝さん=富山県南砺市井波で

 彫刻工房の一つに入ってみると、木の香りが漂い、伝統工芸士の野村清宝さん(83)が100本以上の鑿や彫刻刀を巧みに使って木彫額(パネル)を制作中。小ぶりの作品でも完成まで2カ月、欄間などの大作になると半年がかりの大仕事という。一緒に作業している弟子たちは、師匠に師事しながら全国唯一の木彫りの学校「井波木彫刻工芸高等職業訓練校」で基礎を学ぶ。

 「井波彫刻」は、寺社彫刻に始まり、欄間、衝立(ついたて)、獅子頭、天神(菅原道真)像などが盛んに彫られてきたが、近年は部屋のインテリアとなる木彫額やペット代わりの動物の像が人気とか。井波に居住し工房を構える約200人の彫刻師が日々、クスノキやケヤキの木塊に魂を吹き込んでいる。

 こうした歴史や技が評価されて5月24日、井波は町全体が「宮大工の鑿一丁から生まれた木彫刻美術館・井波」として「日本遺産」に認定された。

 その井波で「木のぐい呑(の)み作り」の彫刻体験ができるというので、挑戦してみた。会場は松尾芭蕉ゆかりの「黒髪庵」。左手に鑿、右手に木槌を握り締めて、ヒノキの小さな塊を彫り始めたものの、初体験ではうまくいくはずもない。ところが、彫刻師・野中願児さん(44)の手ほどきを受けるうちに、だんだんなじんできて1時間ほどで曲がりなりにも「マイぐい呑み」ができあがり! 早速、間近にある若駒酒造で地酒をひと飲みして体験終了。

「井波彫刻」で飾られた越中八尾の曳山=富山市八尾町で

「井波彫刻」で飾られた越中八尾の曳山=富山市八尾町で

 木彫りの里を存分に楽しんだ後、「井波彫刻」が施された曳山(ひきやま)(山車)が富山県内の各地にあるというので、その一つ、越中八尾に足を運んだ。9月初めの「おわら風の盆」で知られる町だが、初夏の風物詩が八尾八幡社の春季祭礼「曳山祭」だ。

 「曳山展示館」に入ると、高さ7メートルほどの絢爛(けんらん)豪華な曳山が3基並ぶ。いずれも「井波彫刻」の歴代の名匠たちによる大小多数の傑作に飾られていた。毎年5月3日には、6基の曳山が坂の町を終日練り歩く。日本の道百選に選ばれた諏訪町の石畳に佇(たたず)むと、年に2度にぎわう祭りの喧噪(けんそう)が聞こえてくるようだ。

 数々の秀作、木の香り、木槌の音…。五感で体感できる木彫りは奥が深い。

 文・写真 水野泰志

(2018年6月22日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
北陸新幹線・新高岡駅でJR城端(じょうはな)線に乗り換えて城端駅下車。
「井波彫刻バス」または「井波・庄川クルーズシャトル」を利用し約20分で井波の町中心部へ。
新高岡駅から路線バスで約60分。
JR金沢駅からは路線バスで約75分。
車利用は北陸道・砺波ICから約10分、東海北陸道・福光ICから約15分。

◆問い合わせ
南砺市観光協会=電0763(62)1201
越中八尾観光協会=電076(454)5138

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★富山・飛騨高山観光バス
JR富山駅とJR高山駅を、観光拠点での散策などを組み込みながら、マイクロバスで結ぶ。
井波、越中八尾、五箇山をそれぞれ主な訪問地とする3ルートが設定されている。
所要約6~7時間。
8800~9800円。
2人以上で運行。
5日前までに要予約。
トミーズツアー=電076(429)8585

★茶ぼ~ず
井波のそば処(どころ)。
古民家を改装した落ち着いた雰囲気の中で、地元の山斐(やまひ)産そば粉を使用した手打ちそばを味わえる。
もりそば(750円)、天ぷらそば(1100円)など。
電0763(82)7300

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人気の富山湾鮨に、地酒や富山らしい酒肴(しゅこう)を組み合わせた新メニュー。
富山県内の約20店で提供。
季節や店ごとに内容や銘柄が異なる。
いずれも5400円。
とやま観光推進機構=電076(441)7722

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。