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ジャカルタ・スラバヤ通り

ジャカルタ・スラバヤ通り インドネシア 変わりゆく街で宝探し

骨董店が立ち並ぶジャカルタのスラバヤ通り=インドネシア・ジャカルタで

骨董店が立ち並ぶジャカルタのスラバヤ通り=インドネシア・ジャカルタで

 松任谷由実の隠れた名曲で、元ちとせもカバーした「スラバヤ通りの妹へ」。舞台はインドネシア、ジャカルタの中心部に程近い。15歳の少女との交流がつづられている。

 一方通行の通りの片側に、500メートルにわたってくすんだ赤い屋根の長屋が続く。もう片側に目を向ければ、歌詞にあったオランダ風の街並み。植民地時代に建てられたであろう瀟洒(しょうしゃ)な白壁と立派な門を備えた家々が並ぶ。

 歌で触れられていた、活気ある市場はそこにはない。家具やランプ、雑貨、楽器、絵画などアンティークを扱う店ばかり。2メートル足らずの間口の小さな店が200軒以上。店先では路上にしゃがみ込み、壊れた商品を直そうと格闘する店主の姿があちこちに。

 「やせた年寄りは責めるように/私と日本に目をそむける」とユーミンはつづった。太平洋戦争の最中、インドネシアは日本の占領下。日本人に対し、憎しみを抱く人も少なくなかったと推察される。ただ、戦後73年。当時を記憶する世代は当然に減っている。老人たちは、商品を見ていけと片言の英語を投げかけ、ほほ笑みを振りまいてくる。

仏像を売ってくれたジョシュさん=インドネシア・ジャカルタで

仏像を売ってくれたジョシュさん=インドネシア・ジャカルタで

 歌の主人公は15歳の少女。似た面影はどこかにないだろうか。花瓶や皿など陶器が並ぶ店内から、人の良さそうな男性が声を掛けてきた。3人の息子と1人の娘がいるというジョシュさん(50)。お薦めを聞くと、鈍い金色の3面の仏像を奥から持ってきた。像の内側は空洞で、軽い。台座の根元は変形し、置くとぐらぐらする。

 「ジャワ島で作られたもので、150年前かな」。とても価値が高い逸品だと強烈に推してくる。値段を尋ねると、120万ルピア。訪れたのは8月中旬だったが、日本円で1万円程度はさすがに高い。

 スマートフォンの電卓機能を使った値段交渉が始まる。「1000円でどう?」。ジョシュさんは苦笑して首を振り、「この像は海底に沈んでいたんだ。価値は高い」とアピールしてくる。しばらく交渉は続いたが、財布に40万ルピアしかないことを見せるとようやく、納得してくれた。

 握手をし、うち解けたところで取材趣旨を説明してみた。このあたりに若い女の子はいないのか尋ねると、ジョシュさんはあきれた顔で「学校に行っている時間だ」。この日は平日。ジャカルタの小中学生の就学率は9割近いという。

 15歳の少女ではないが、50歳の男性と交流できたと納得して店を出た。数軒隣の店先に、似た仏像が置いてあった。男性店員から「15万ルピアでいいよ」と言われた。

ジャカルタの街中の渋滞

ジャカルタの街中の渋滞

 通りの裏手に細い川が流れていた。歌の中で記述されていた波止場がかつてはあったのだろうか。よどみ、強烈な悪臭が鼻を突く。橋の上で、作業員が川にたまったごみを繰り返し拾いあげていた。

 残念ながら40年近く前に発売された歌の景色とは、異なる情景が多かった。この間、インドネシアの名目国内総生産(GDP)は200倍以上に。人口2億人を超える世界最大のイスラム国は急成長を遂げている。ただし、途切れることなく小さな骨董(こっとう)店が並ぶ通りは、ウインドーショッピングをしているだけでも気持ちは高ぶる。知らず知らずのうちに時は過ぎていく。

 中にはお宝も眠っていてもおかしくない。あいにく、記者は目利きができるような知識を持ち合わせてはいなかったが。

 文・写真 多園尚樹

(2018年9月21日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
成田、羽田からジャカルタへの直行便がある。
所要約7時間半。
中部国際からは乗り換えが必要。

◆問い合わせ
インドネシア共和国観光省ビジットインドネシア日本地区事務所=電03(5363)0158

おすすめ

モナス(独立記念塔)

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ジャカルタのスイーツ

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★モナス(独立記念塔)
高さ137メートルの塔は、戦後のインドネシアの独立を象徴する。
エレベーターで最上部の展望台に上がることができるが、待ち時間に覚悟が必要。

★スイーツ
もち米を使ったお菓子が多い。
露店では保存や殺菌のため、バナナの葉に巻かれている物が目立つ。
葉の独特の香りが食材と混ざり合い、食欲をそそる。

★交通渋滞
ジャカルタは交通渋滞が世界最悪ともいわれる。
朝夕の幹線道路のほか、大型のショッピングモール周辺などは時間帯を問わず、大渋滞している。
移動には時間に余裕を持って。

★タクシー
法外な運賃を要求してくるタクシーも少なくない。
安心して乗車できると評判なのが、水色の車体が特徴の「ブルーバード」というタクシーグループ。
現地住民も好んで利用し、空港や駅には専用の乗り場もある。

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