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ヘルシンキと周辺部

ヘルシンキと周辺部 フィンランド 森の恵み 食に文化に

ヘルシンキの繁華街では、日が暮れてからも人々がテラス席で憩いのひとときを過ごす

ヘルシンキの繁華街では、日が暮れてからも人々がテラス席で憩いのひとときを過ごす

 国土の7割を森が占めるフィンランドは「森と湖の国」だ。首都ヘルシンキは、8月下旬にもなると秋の足音が近づく。最高気温は20度前後で爽やか。夕暮れが迫る午後8時を過ぎても沖にはヨットが浮かび、街なかのテラス席では人々が憩う。夏の終わりを全力で楽しもうとしているかのようだ。

 その首都から車で1時間。「森の住人」ペッカさんの案内で、朝のヌークシオ国立公園を歩いた。オウシュウトウヒやシラカバが広がる一帯は、とても静かで、木漏れ日が美しい。

 本来なら実りの時季だが、少雨と暑さが響き、今年はまれにみる不作だそうだ。それでも、森を知り尽くすペッカさんが秘密の場所へと案内してくれた。草むらの中に、赤色のリンゴンベリーや紫色のビルベリーがひょっこり現れた。雪と錯覚するくらい白い地表はトナカイが好むコケの群生。野生のベリーやキノコは、だれもが自由に摘んでいいお国柄。栄養豊富なベリーはジャムやジュースなどに幅広く利用される。

ベリー探索を前に、案内のペッカさん(右)は、木に額を当てた。「森と交信しているんだ」と言う=ヌークシオ国立公園で

ベリー探索を前に、案内のペッカさん(右)は、木に額を当てた。「森と交信しているんだ」と言う=ヌークシオ国立公園で

 森の恵みは、食材にとどまらない。サウナストーブを温める薪となり、生活の一部となっているサウナ文化を支えてきた。サウナは健康や心身のリフレッシュばかりではなく、心を通わせ合う特別な空間としても意識されている。商談にも使われ、国会議事堂にもあるほどだ。

 地元の人と交流したいと、創業90年の老舗コティハルユン・サウナへ向かった。海やプールで体を冷ます施設もあるが、ここは路上に出て、風に吹かれてクールダウンする。

 ロッカーに荷物を入れ、裸になって入室。六つの石段があり、上に行くほど温度が高まる。最上段は114度。汗が噴き出し、数分で我慢は限界点に。タオルを手に外に飛び出すはめになった。

 「無理です。この熱さは」。男性客に話しかけると、「熱いほど外に出たとき心地いい。でも、少しずつ慣れたらいいよ」と助言をくれた。冬になると積もった雪の中に飛び込むというから、驚くばかりだ。

 1時間かけて室内を出入りした苦行を終えた自分へのご褒美にジンベースのカクテルを買い、最後のクールダウンをした。生き返る心地に酔いながら、訪れた醸造所や蒸留所を思い浮かべた。

 フィンランドでは、2010年前後からビールやジンのクラフトブームの波が押し寄せている。欧州で人気に火がついたのが発端で、スーパーにも新商品の投入が相次ぎ、地元の人も覚えていられないほどだという。

風を浴びながら屋外で体を冷ますサウナ客。外に出るのは男性が多いが、女性も、時折タオルを巻いて涼んでいる=ヘルシンキ市内で

風を浴びながら屋外で体を冷ますサウナ客。外に出るのは男性が多いが、女性も、時折タオルを巻いて涼んでいる=ヘルシンキ市内で

 ヘルシンキでも4年前にジンの蒸留所が稼働し、アートの村として知られるフィスカルスにも、ここ数年でビールやシードル(りんご酒)を製造する小規模事業者が進出していた。

 そこで見たのは「フィンランドらしさを酒で表現したい」と情熱を傾ける経営者たちだ。ビールの風味づけにオウシュウトウヒの芽やベリー、ジンにはジュニパーベリーの実を使う。シードルは、周囲30キロ圏で収穫されるリンゴを原料にしていた。目指すのは高い品質と身近な自然のハーモニー。失敗をおそれず世界発信の夢を追っていた。

 帰国後、みやげに持ち帰ったクラフトビールの栓を開けた。みずみずしい香りに森や草原の風景がよみがえる。「キッピス(乾杯)!」。残暑を忘れ、なんだか祝いたい気分になった。

 文・写真 斉藤明彦

(2018年9月28日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
フィンエアーの直行便は10月下旬までの夏ダイヤでは、成田から毎日2便、中部国際からは毎日1便運航。
10月末からは成田発が週9便、中部は6便になる。
所要時間は9~10時間。航空券の予約は同航空日本支社=電03(4477)4866

◆観光情報
フィンランド政府観光局公式ホームページ「ビジット・フィンランド」が詳しい。

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ハカニエミ市場

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赤壁の木造倉庫群

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★マーケット
港に面したマーケット広場や、街なかのハカニエミ市場などがあり、さまざまな野菜や果実が並ぶ。
ハカニエミの赤れんがの建物は改装中で、仮設の屋内店舗が営業。
アクセサリーや工芸品の店舗もあり、お土産探しに便利。

★ポルボー
ヘルシンキから東へ50キロ離れた中世の面影が色濃い観光地。川のほとりの赤壁の木造倉庫群は、貿易の要衝だった名残。
石畳とパステルカラーの建物の調和がメルヘンチックな街並み。
ポルボーに住んでいた国民的詩人ルーネベリにちなんだルーネベリタルトを味わえるカフェもある。

★カッファ・ロースタリー
ヘルシンキ市内にあるカフェとコーヒー豆の焙煎(ばいせん)所。
フィンランドにおける浅いりコーヒーの先駆けで、豆が育った環境の香りを引きだすことにこだわり、取引先の農家を支援している。
日本でも豆の定期購入(サブスクリプション)のサービスを検討中

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