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那須温泉「鹿の湯」

那須温泉「鹿の湯」 栃木県 六つの湯船で至福の汗

湯治場の風情を残す「鹿の湯」の建物

湯治場の風情を残す「鹿の湯」の建物

 山あいを流れる湯川を渡ると、もう硫黄泉特有の強い香りが漂ってきた。川のほとりにひなびた木造の建物が見えてくる。那須温泉(栃木県那須町)の共同浴場「鹿の湯」は、数多くの温泉がある栃木県内でも最も古い温泉だ。見つかったのが630(舒明2)年ごろというから、1400年近い歴史がある。

 風情のある木造の建屋は、内部の改修こそ何度も行われているものの、建屋自体は1941(昭和16)年に建てられたものという。金属はすぐ腐食するため、鉄の釘(くぎ)は使わず竹製の釘などを使っているそうだ。

 「鹿の湯」と書かれた木の看板の横から緩やかな階段を上り、正面のガラスの引き戸を開けると受付がある。入浴料は平日なら400円(小学生300円)、土日祝日は500円(同)。下を流れる湯川をまたぐ渡り廊下の先に男湯と女湯がある。

  脱衣所の奥に、2メートル四方ほどの木の浴槽が六つ並んでいる。手前から順に41度、42度、43度、44度、46度、そして48度(女湯には48度はない)と湯の温度が表示してある。湯は硫黄泉。「源泉は約60度あるので、浴槽ごとに湯を出す管の太さを変えて温度を調節しているんです」と「鹿の湯」の薄井和夫さん(72)。

度の違う六つの浴槽が並ぶ「鹿の湯」

度の違う六つの浴槽が並ぶ「鹿の湯」

 脱衣所に掲示してあった「効果ある入浴の心得」にしたがって、まずかぶり湯をする。ひざを湯のふちについて頭を下げ、ひしゃくで首のうしろに47度のかぶり湯を何回もかける。これをしっかりやると湯あたりしないそうだ。

 42度の浴槽から入ってみる。「ふ~っ」。白濁したお湯はちょうどよい湯加減で気持ちがよい。続いて44度。これも熱めではあるが、大丈夫だ。少し休んで46度に挑戦してみる。手で湯加減をみるとさすがに熱い。ここでは先に入っている人にひと声かけてから波を立てずにそうっと入るのがルール。「う~っ熱い」。でもがまんできなくはない。湯が揺れると肌がぴりぴりする。ルールの意味がよくわかった。数分頑張ってそろりと出る。体が真っ赤だ。

 慣れてきたところで48度に挑戦した。さすがに痛いほどの熱さ。「ぬるいぞ。これじゃ風邪ひいちゃうよ」。熱がるこちらを見て隣の常連さんが余裕で笑う。じっとがまん。出て少したつと汗がどっと噴き出してきた。体中の老廃物が一気に出たような爽快な気分になる。

 湯につかる時間は1回2~3分、上がって休みまた入るを4、5回繰り返す短熱浴がここの入り方だ。常連さんは皆、砂時計とペットボトルの水を持っている。血行がよくなるせいか体はほかほかといつまでも温かい。この温泉に入るためだけに、遠くから通ってくる人が多いというのもわかる気がした。

荒涼とした風景が広がる殺生石園地=いずれも栃木県那須町湯本で

荒涼とした風景が広がる殺生石園地=いずれも栃木県那須町湯本で

 湯上がりにすぐ近くの名勝地「殺生石(せっしょうせき)園地」を散歩した。谷あいに火山ガスが漂い、岩石がごろごろとして荒涼とした風景が広がっている。奥の「殺生石」まで300メートルほど木道が整備されている。

 ここには「九尾の狐(きつね)伝説」が残っている。平安時代、中国から渡ってきた九尾の狐が美女に変身し、時の帝(みかど)の寵愛(ちょうあい)を受けるようになる。狐は帝の命を奪い日本をわがものにしようとするが、正体を見破られ那須野原へ逃げ込む。退治された狐は巨石と化し、その怨念が毒気となって近づく人や鳥獣を殺し続けたという。恐らく、かつて大量に火山ガスが噴き出していたこの地に人が近づくのを戒めるためにできた伝説なのだろう。江戸時代にはこの話が歌舞伎の題材にもなり、殺生石は広くその存在を知られるようになったという。

 文・写真 橋本節夫

(2018年10月26日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
那須温泉「鹿の湯」へは、東北新幹線・那須塩原駅から東野交通バス・那須ロープウェイ行きに乗り那須湯本温泉下車、徒歩2分。
車は東北道・那須ICから約15分。

◆問い合わせ
鹿の湯=電0287(76)2045

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