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しまなみ海道

しまなみ海道 広島、愛媛県 画伯生んだ豊かな地

古い町並みには自転車の子どもたちが遊び、地元の人の生活がある=広島県福山市で

古い町並みには自転車の子どもたちが遊び、地元の人の生活がある=広島県福山市で

 春のしまなみ海道へ行こう-。そう決めたら、知人がアドバイスをくれた。「しまなみ海道へ行くなら、前日は(広島県福山市の)鞆(とも)の浦に泊まって鯛(たい)料理に限る。もちろん対岸へ渡ったら(松山市の)道後温泉もあるよ」と。その案に乗って、今回の旅をスタートした。

 最初の目的地は鞆の浦。宮崎駿監督の映画「崖の上のポニョ」の舞台イメージとなった、古い町並みが残る港町だ。地元で「とうろどう」と呼ばれるシンボルの常夜灯は観光客の撮影スポット。国史跡・海岸山千手院福禅寺の本堂に隣接する対潮楼からは、絶景の湾を見渡すことができた。石畳の細い路地に入ると、板塀の古民家が並び、自転車に乗った子どもたちが遊んでいた。観光地と土地の人たちの日常生活が同居する、不思議な空間だった。夜はもちろん鯛づくし。刺し身からしゃぶしゃぶ、しめの鯛茶漬けまで満喫した。

 翌日はメインのしまなみ海道へ。広島県尾道市から愛媛県今治市までをつなぐ自動車道で、サイクリングロードを併設している。最初に立ち寄った島は尾道市の因島。「ハッサク発祥の地」だという。「因島の『はっさく大福』はぜひ食べてみて」。これも知人の助言を忠実に実行した。地元産のさっぱりしたハッサクを軟らかい求肥(ぎゅうひ)で包んだ和菓子は、ジューシーで人気の一品。8月中旬までの季節限定だと聞き、ありがたさが増した。

 食だけを楽しみに来たわけではない。次に寄った生口(いくち)島では「平山郁夫美術館」で絵画を鑑賞した。東西文化をつないだシルクロードを描いた画家として有名な平山画伯は同島出身。なーんてちょっと文化の薫りを漂わせてみても、食いしん坊の私は結局、伯方(はかた)島名産の塩を利かせたジェラートを食べることも忘れなかった。

多々羅大橋のたもとにある道の駅「多々羅しまなみ公園」。サイクリストの聖地の石碑の横で女性が瀬戸内海を眺め、ゆったりとした時間が流れる=愛媛県今治市の大三島で

多々羅大橋のたもとにある道の駅「多々羅しまなみ公園」。サイクリストの聖地の石碑の横で女性が瀬戸内海を眺め、ゆったりとした時間が流れる=愛媛県今治市の大三島で

 生口島から多々羅大橋で大三島に渡ると、愛媛県に入る。橋のたもとにある道の駅「多々羅しまなみ公園」にある石碑には「サイクリストの聖地」と刻まれている。確かに自転車で気持ち良く風を切る人が多い。石碑のかたわらには、サイクリング中の女性が自転車を止め、大小の船が行き交う瀬戸内海の水面(みなも)を眺めていた。道の駅の売店には、温州ミカン、デコポンなどさまざまな種類のみかんジュースが並んでいる。「自転車を利用する人のために冷やしたジュースも置いています。喉の渇きが吹っ飛ぶと好評です」と男性店員。果汁100%のジュースに、愛媛県らしさを感じた。

しまなみ海道で、四国に最も近い大島にある亀老山展望公園から来島海峡大橋がかかる来島海峡を望む。平山郁夫画伯もスケッチした絶景ポイントだ=今治市の大島で

しまなみ海道で、四国に最も近い大島にある亀老山展望公園から来島海峡大橋がかかる来島海峡を望む。平山郁夫画伯もスケッチした絶景ポイントだ=今治市の大島で

 日没が近づいたころ、四国に上陸する前の最後の島、大島に到着。大島ではしまなみ海道随一の眺望と評判の亀老山(きろうさん)展望公園へ。平山画伯がしまなみ海道五十三次をスケッチした場所としても知られている。「対岸は愛媛県だね」「トンビが飛んだ」。夕刻にもかかわらず、多くの人の歓声が飛び交う。世界初の3連つり橋・来島(くるしま)海峡大橋が、来島海峡に浮かび上がる幻想的な光景が心に残った。

 終着地の道後温泉で旅の疲れを癒やしたが、運動部の記者として、正岡子規について展示している「子規記念博物館」を見逃すわけにいかない。東京大予備門時代に熱中したベースボールを随筆の中で紹介し、「打者」「走者」「直球」など現在も残る用語を訳出した。その松山出身の偉大な文学者が、3年ほど新聞記者をしていた事実も初めて知った。食も知識もおなかいっぱい、大満足の旅になった。

  文・写真 伊東朋子

(2019年4月26日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
しまなみ海道の本州側の玄関口はJR尾道駅。
四国側はJR今治駅。
広島県の向島、因島、生口島、愛媛県の大三島、伯方島、大島の主な六つの島などに14カ所の自転車用のターミナルがある。
レンタルの場合、乗り捨ても可能なため、タクシーなどと組み合わせて尾道から今治まで渡ることもできる。

◆問い合わせ
一般社団法人「しまなみジャパン」=電0848(22)4073

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保命酒

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★保命酒
シャクヤク、カッコンなど16種類の生薬を含む日本古来の薬味酒。
1659年から鞆の浦で製造されており、ペリーやハリスが来航した幕末の宴会では食前酒として飲まれていたという。

★平山郁夫美術館
広島県尾道市の生口島出身の画家、平山郁夫画伯の作品や生い立ちを紹介している。
午前9時~午後5時。
入場料は一般900円、高大学生400円、小中学生200円。

★松山市立子規記念博物館
5~10月は午前9時~午後6時。
11~4月は同5時まで。
入場料は大人400円、65歳以上200円、高校生以下は無料。
原則火曜休館。

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