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神流川

神流川 群馬県上野村 清流と共に生きる里

神流川の清流と釣り人

神流川の清流と釣り人

 群馬県の西部、長野県、埼玉県との境に位置する上野(うえの)村は、1985年に日航ジャンボ機が墜落し、520人が亡くなった「御巣鷹の尾根」で知られる。痛ましい事故の現場はまた、清流に抱かれた村でもある。利根川支流の神流川(かんながわ)が山並みを縫うように流れ、本流から分かれた枝沢が網のように広がる。

 1100人ほどの村人は流れのそばに集落をつくり、寄り添うように暮らしている。どの集落にも古びた石橋などがあり、橋の横には人が通い慣れただろう小道があって河原へと続いている。河原に下り立ち、ぱっと広がる空間に喜んでいると、大抵の場合、釣り人に出会う。

 イワナ、ヤマメといった渓流魚を狙う太公望たちだ。

 釣り人は新緑が濃緑に変わった山肌に溶け込むように、流れの縁に立ち込んでいる。

 魚を散らさないように気配を消すことを「木化け」「石化け」というが、まさに風景の一部に化けている。風が木々を揺らし、カナカナとカジカガエルの鳴き声が響く。あとはせせらぎの音ばかりの静かな世界だ。

 村に数軒しかない民宿のひとつ、不二野家の主人、黒沢昭司さん(64)も川と共に育った。「学校帰りにパンツ一丁で川に飛び込むのは毎日のことだった。川は透明で、水中眼鏡がなくとも対岸の石まで見えた。ヤスで突いたり、手づかみで魚を捕まえると、ばかにならない小遣いになった」

 そんな経験を都会から来る子どもたちにも味わってほしいと、宿泊客向けにいくつもの体験プランを用意している。

 その一つがズーコン釣り。

おひながゆの行事で使われる「お城」の石積み

おひながゆの行事で使われる「お城」の石積み

 流れの中に立ち込んで、糸と餌を付けた長さ4メートルほどの竿(さお)を下流に垂らす。竿の先端を水中に入れ、ズーコン、ズーコンと前後に揺らすと、魚が餌に食い付くという釣りだ。渓流釣りの未経験者でも子どもでも簡単に釣れるので、夏の楽しみにはうってつけだという。

 川に餌の付いた置き針を仕掛けておき、翌朝、回収に行くという遊びもある。天然のウナギやギギと呼ばれるナマズの一種などがとれ、食卓を飾る。食卓といえば、野生のクマやシカ、イノシシの肉を食べられるのも不二野家ならではの楽しみだ。黒沢さん自身がわなを仕掛けてとったのだという。

 上野村役場の直下の淵で大きなヤマメが群れをなしてジャンプを繰り返していた。この付近は釣りは釣りでも擬餌針の専用区で、釣り上げた魚は、持ち帰らずに放さなければいけない。村にはこうしたキャッチ&リリース区間が3カ所ある。釣り人を呼び込もうと20年ほど前、関東地方で初めて導入したが、今では、すっかり定着した。

 また、乙父(おっち)という集落で珍しいものを見つけた。河原に直径3メートルほどの「お城」と呼ばれる円形の石積みが4つある。毎年4月3日に開催される子どものためのお祭り「おひながゆ」の舞台だという。当日は石積みの中に畳を敷き、こたつを運び込んで、子どもたちにごちそうが振る舞われる。石積みは秋の台風などで増水すると流れてしまう。流れたら、また村人が総出で石を運び、積み上げるのだ。

 川は毎年のように姿を変える。淵が埋まって瀬に変わり、ときには堤防が破れて氾濫する。

日航機事故の犠牲者を悼む慰霊塔=いずれも群馬県上野村で

日航機事故の犠牲者を悼む慰霊塔=いずれも群馬県上野村で

 だが、森を潤し、命を育み、美しい景色をつくって人に喜びをあたえる存在であるのは変わらない。そんな川と、うまずたゆまず、しなやかに共存してきた村人の心が、キャッチ&リリース区間やおひながゆの石積みによく表れている。

 帰り際、村内にある日航機事故の「慰霊の園」に立ち寄り、慰霊塔に手を合わせた。

  文・写真 坂本充孝

(2019年5月24日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
上野村へは車で上信越道下仁田ICから約35分。
鉄道はJR高崎駅(群馬県高崎市)で上信電鉄に乗り換え、下仁田駅で下車、タクシーで約30分。
名古屋から高崎駅へは東京経由で上越、北陸新幹線が便利。

◆問い合わせ
上野村観光協会=電0274(20)7070。
村内の釣りについては上野村漁協=電0274(59)3155。
不二野家=電0274(59)2379

おすすめ

不二洞

不二洞
上野スカイブリッジ

上野スカイブリッジ

★不二洞
全長2.2キロと関東一の規模の鍾乳洞。
約1200年前に発見され、約400年前から仏教の修行の場とされてきた。
内部はライトアップされ一周するのに約40分かかる。
入場料は大人800円。
小中学生500円。
午前9時~午後4時半(冬季午前10時~午後3時)。
無休。
電0274(59)2146

★上野スカイブリッジ
上野村川和にある神流川の支流にかかる長さ225メートルの観光つり橋。
高さ約90メートル、付近の山が一望できる。
通行料100円(往復)。
開門は午前8時半~午後5時15分。
荒天時には休業の場合も。

★浜平温泉・しおじの湯
神流川の河畔にある日帰り温泉施設。
イノブタと温泉を利用したダムカレーなどの軽食も食べられる。
料金は大人500円。
子ども300円。
午前11時~午後8時、火曜休み。
電0274(59)3955

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