【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 空知地域
空知地域

空知地域 北海道 炭鉱マンの夢と眠る

旧住友赤平炭鉱立坑櫓建屋内部の操車場。石炭や炭鉱マンを運んだトロッコやレール、ゲージが残る=北海道赤平市で

旧住友赤平炭鉱立坑櫓建屋内部の操車場。石炭や炭鉱マンを運んだトロッコやレール、ゲージが残る=北海道赤平市で

 静寂に包まれた鈍色の世界。石炭と労働者を運んだトロッコとレール、機械類が時の流れを感じさせながらも、そのまま残る。廃虚マニアにはたまらないだろう。1963(昭和38)年に建設され、94年まで稼働した旧住友赤平炭鉱立坑櫓(たてこうやぐら)。北海道空知(そらち)地域の赤平(あかびら)市にあり、坑内では最大4870人が働いていた。

 南に札幌、北は旭川の間に位置する空知地域は、明治から昭和にかけて国内最大の採炭地として栄えた。各地の炭鉱遺産は20日、文化庁の「日本遺産」に認定されたばかりだ。旧赤平炭鉱立坑櫓の建屋内部は1日2回、ガイド付きで見学できる。かつては最深650メートルまで掘られた坑道と地上を、むき出しのゲージ(エレベーター)4基が結んでいた。当時の最先端技術で、秒速12メートル。ガイドの元炭鉱マン三上秀雄さん(69)は「横浜のランドマークタワーに抜かれるまでは日本一の速さ。乗ると耳が圧迫された」と語る。

 昨年、炭鉱の歴史や資料を展示する施設がオープン。高校卒業後、閉山まで25年間働いた三上さんの話を聞きながら見ると、石炭業の趨勢(すうせい)と炭鉱労働の過酷さが伝わってくる。地下でアリの巣のように幾重にも張り巡らされた坑道は東西3キロ、南北8キロにも及んだ。粉じん防止のために水がまかれ、湿度は約90%、気温は真冬でも25度に上った。よく観光客に「本当の暗さを知っていますか」と尋ねるという三上さん。「地上に上がるとほっとした。太陽の光がまぶしくてね」と振り返る。暗く、閉ざされた場所で、岩盤を掘り続ける作業の孤独と恐怖を感じずにはいられない。

映画のラストシーンを再現した「幸福の黄色いハンカチ想い出ひろば」=夕張市で

映画のラストシーンを再現した「幸福の黄色いハンカチ想い出ひろば」=夕張市で

 美唄市にある旧三菱美唄炭鉱施設跡地は現在、炭鉱メモリアル森林公園として整備されている。高さ20メートル、2本の朱塗りの立て坑やぐらが緑に映える。周辺は小学校や鉄道駅など往時を思わせる旧跡が残り、活況を呈した時代を想像させる。戦後、石炭業で隆盛を極めた炭鉱の町は、石油へのエネルギー転換などにより役目を終えた。「国の政策に翻弄(ほんろう)された産業だった」という三上さんの言葉が印象深い。夕張市の「幸福の黄色いハンカチ想(おも)い出ひろば」では、高倉健さん主演の映画のラストシーンを再現。炭鉱住宅の暮らしぶりも垣間見られる。

山あいを移動中、目の前に現れたキタキツネ。こんな出合いも北海道ならでは=三笠市で

山あいを移動中、目の前に現れたキタキツネ。こんな出合いも北海道ならでは=三笠市で

 山あいを移動中、目の前をキタキツネが横切った。思わず車の窓を開ける。警戒心が強いと聞くが、車が止まると、目の前まで寄ってきて、カメラ目線で写真に納まってくれた。食べ物をねだるような目だが、野生動物への餌づけは禁物。後ろ髪を引かれつつ、別れを告げた。

 炭鉱マンが愛し、地元で定着したグルメがある。夕張市内6店舗が提供する名物は、カレーそば。1929(昭和4)年創業のそば店「吉野家」は豚肉とタマネギをえび油で炒め、カレー粉をブレンドしたつゆを丼になみなみと注ぐ。とろみは強く、よくからんだ太麺はやや辛め。地域でいったんは途絶えた味を、約10年前に復活させた4代目店主の高橋一太さん(49)は「お客さんの8割が注文する看板商品になった」と胸を張る。

 意外なことにスイーツも人気だったという。砂川市の国道12号沿いを中心に「すながわスイートロード」と呼ばれ、3キロ圏内に創業120年超の老舗「いよだ」や、全国的に有名な「北菓楼砂川本店」など20店が軒を連ねる。新旧和洋の甘味のはしごが楽しい。和菓子にソフトクリーム、海産物を練り込んだおかき…あれこれ食べたこの日の夜、体重計の数字にがくぜんとした。そういえば、カレーそばも完食したっけ。さすが重労働に汗を流した男たちのグルメ…高カロリー恐るべし。

  文・写真 古谷祥子

(2019年5月31日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
新千歳空港へは、直行便で中部国際空港から1時間40分、羽田空港から1時間半。
新千歳空港から空知地域へはレンタカーが便利。
本文に登場する各都市間の移動は、高速道路利用で2時間圏内。

◆問い合わせ
北海道空知総合振興局=電0126(20)0185

おすすめ

滝川市の菜の花

滝川市の菜の花
味付けジンギスカン

味付けジンギスカン

★季節の風景
大自然が魅力の北海道では、季節ごとに雄大な景色が楽しめる。
取材に訪れた5月下旬は、全国有数の作付面積を誇る滝川市の菜の花が、最盛期を迎えていた。
ワイン醸造が盛んな空知では6月中旬から青々と茂るブドウ畑が見られる。
7月下旬ごろには、北竜町ひまわりの里が見頃となる。

★味付けジンギスカン
道民のソウルフード。
滝川市の本店など10数店を構える「松尾ジンギスカン」では、リンゴやタマネギが入ったしょうゆベースのたれに漬け込んだ羊肉を焼く。
鍋の外側で野菜を煮込み、中央に肉を寄せる焼き方が特徴。
ラムリブロースランチや、赤身モモ特上ラムとマトンの食べ比べセットが人気。
本店限定のジンギスカン焼きそばも。

★うたしないチロルの湯
歌志内市にあり、旧炭坑の採掘鉱から毎分650リットル湧出する天然温泉。
宿泊施設も併設し、レストランでは馬の腸をみそで煮込んだ郷土料理「なんこ鍋」を提供している。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。