うだるような都会の酷暑を逃れて、長野県北西端にある小谷(おたり)村の栂池(つがいけ)高原を訪れた。
早朝6時半、標高839メートルの栂池高原駅から始発のゴンドラリフト(20分)とロープウエー(5分)を乗り継いで、一気に標高1、829メートルの自然園駅まで上がると、ひんやりとした冷気が辺りを覆う。
ゴンドラリフトからは、北アルプスの鹿島槍ケ岳、五竜岳、唐松(からまつ)岳、白馬鑓(はくばやり)ケ岳、杓子(しゃくし)岳、白馬(しろうま)岳、小蓮華山(これんげさん)、白馬(はくば)乗鞍岳の峰々が眼前に迫り、眼下には姫川に沿って広大な雲海が続く光景に遭遇した。
栂池自然園は、標高1、860メートルから2、020メートルに広がる国内有数の高層湿原で、4つの湿原が約5.5キロの周遊路で結ばれている。大半は木道が整備され、小さな子どもから高齢者まで気軽に楽しめる。
ビジターセンターすぐの「ミズバショウ湿原」は車いすでも散策できる平らな遊歩道に囲まれている。
「ワタスゲ湿原」まで歩くと、白馬三山が望める絶好のビューポイントに。ところがカメラを構えているうちに、急に雲が湧いてきて山が隠れてしまった。その後は雲が切れることはなく、小谷村観光連盟の小島優治さん(62)は「夏の山を眺めるなら、早朝です。気温が上がると、雲が出て山頂は見えなくなってしまうんです」。ゴンドラリフトの運転開始と同時に乗ったから山々の雄姿が見られたので、早起きしてよかった。
次の「浮島湿原」までは、木道も途切れがちな、やや急な山道が続くが、いつも街中を歩いているウオーキングシューズでも問題なし。途中で出会った愛知県大府市の森田さん一家、男性(39)・女性(36)と小学2年生から2歳までの3兄弟も元気に上ってきた。
さらに最奥の「展望湿原」まで行くと、白馬大雪渓が一望の下に。涼風が心地よく、たいして汗をかくこともなかった。
どこもかしこも数十種類におよぶ高山植物が咲き乱れ、間近に見られるのがすばらしい。コース案内には「1周ゆっくり歩いて3時間30分~4時間」とあったが、山を眺めたり、花を愛(め)でたり、休憩したりで、5時間以上かかってしまった。途中で戻る30分コースや1時間コースでも雲上の景観を十分楽しめそうだが、標高が高いので、天候の急変に備えて、しっかりとした装備と心構えが必要だろう。
栂池高原を下って、北上し、妙高山群の雨飾山(あまかざりやま)に向かうと、登山口近くの雨飾高原に鎌池が現れた。標高1、190メートルにある周囲2キロほどの池で、訪れた時は霧が立ち込めて神秘的な雰囲気が漂い、静寂に包まれていた。車で直近まで入れ、遊歩道も完備しているのに、にぎやかな栂池高原とは対照的だ。
「小谷村には、栂池高原のある中部山岳国立公園と鎌池のある妙高戸隠連山国立公園と、趣の違う2つの国立公園があるんです」と小島さん。1日のうちに2つの絶景を巡ることができて、ちょっと得した気分に。
再び栂池高原に戻り、かつて糸魚川(新潟県)から松本まで塩を運んだ、「千国(ちくに)街道・塩の道」を歩いてみた。小谷村では、旧街道をたどる8つのルートが整備されており、百体観音-千国番所跡-小谷村郷土館をつなぐ3時間ほどの千国越えコースは、見どころも多い。千国街道はアップダウンが激しく、牛が牛方(うしかた)にひかれて塩などの荷を運んでいた。牛方が泊まった牛方宿は1軒のみが現存し、史料館になっている。当宿で生まれ育った千国美晴さん(63)が案内役を務めている。
次は紅葉の季節に「ぜひ」と勧められた。もちろん、冬のスキーにも。
文・写真 水野泰志
(2019年8月16日 夕刊)
メモ
◆交通
栂池高原へは東京から3時間半。
北陸新幹線で長野駅まで行き特急バスに乗り換える。
新宿からはJR中央線経由で大糸線南小谷駅までの直通特急があり、村営バスに乗り換え4時間50分。
名古屋からはJR中央線松本駅乗り換えで最短4時間20分。
◆問い合わせ
小谷村観光連盟=電0261(82)2233
おすすめ
★さるなしソフトクリーム
小谷村特産のサルナシは、キウイの仲間でベビーキウイとも呼ばれ、山間地で栽培される希少種。
ソフトクリームはほんのりと甘く、さっぱりとした味わい。
栂池自然園入り口にある「栂池山荘」と「道の駅小谷」で販売している。
300円。
★そば屋 蛍
山中にある築120年の古民家。
石臼で挽(ひ)くそばは、そば殻を取り除いた「蛍の緑」(880円)とそば殻も混ざった「深里(ふかさと)」(780円)の2種類。
くるみダレがよく合う。
火・水曜休み、冬季休業。
電0261(85)1810
★姫川温泉「瘡(くさ)の湯」
小谷村に数ある温泉の一つで、武田信玄の隠し湯とも。
日本では珍しい重炭酸土類泉(現分類では炭酸水素塩泉)で、アレルギー性疾患や慢性皮膚病、痛風、糖尿病などに効果があるという。
午前9時半~午後6時半。
木曜休み。
600円。
電025(557)2120