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能登中島

能登中島 石川県七尾市 胸を借り ひと夏の創作

能登中島駅舎内には、能登演劇堂で上演された作品のポスターが掲示されている

能登中島駅舎内には、能登演劇堂で上演された作品のポスターが掲示されている

 台風10号の影響で飛行機の到着が遅れたが、夕方にはもう雨がやんでいた。

 能登半島の中部、石川県七尾市中島町に能登演劇堂はある。裏山を借景とする劇場として知られ、その光景だけでも見る価値があると聞いて来た。公演などがない日は予約して館内見学ができる。駆けつけると、すでに舞台後方の大扉は開かれていた。われこそ主役だというように森の緑が迫ってくる。

 演劇堂を監修したのは俳優仲代達矢さんだ。家族で旅行した町の自然が気に入り、主宰する劇団「無名塾」で1985年から合宿していたのが縁だったという。95年の開館以来の演劇堂の歴史はそのまま「演劇の町」の歩み。のと鉄道・能登中島駅舎内には、過去に上演された作品のポスターが所狭しと誇らしげに掲げられていた。ロングラン公演には数万人が訪れ、2009年秋の能登限定公演「マクベス」では20億円以上の経済効果をもたらしたという。

 そんな「演劇の町」も少子化の波にのまれているが、子どもたちに演劇に親しんでもらおうと、愛知など中部6県の高校演劇部のワークショップや小学校での出前授業を重ねてきた。そして今年、新機軸が生まれた。

 旧県立中島高校普通科演劇コースOBの舞台俳優滝腰教寛(たきごしたかひろ)さん(34)が、都会の大学生の滞在制作を発案、地域おこし協力隊の協力を得て「演劇を通したふるさとおこし」に乗り出したのだ。賛同した母校・日本大芸術学部演劇学科(東京)の3、4年生18人は、プロジェクトを「ノトゲキ」と名付けた。

裏山の緑を借景にした能登演劇堂で、当地で暮らした体験をもとにした舞台作品を構想する日本大芸術学部演劇学科の学生たち

裏山の緑を借景にした能登演劇堂で、当地で暮らした体験をもとにした舞台作品を構想する日本大芸術学部演劇学科の学生たち

 「アーティストが住み込みで制作する例は各地にあるが、学生が住民と直接関係を持って創作する例はまだ少ない」と滝腰さん。学生たちは今月10日から3週間、空き家で寝泊まりし、生活費や活動費は地元の旅館や農家、飲食店で働いて稼いできた。31日午後1時半、演劇堂で開く「成果発表」に向け、稽古にも励んできた。

 舞台の下見に来ていた4年生の藤本直人さん(22)は「東京では遊びで補っていた精神の支えが、ここではおいしい野菜や、人々と交わすあいさつで得られる」と充実の表情。宇田奈々絵さん(22)も「この町で生活しなかったらできない作品にしたい」と意気込む。

 学生らは中島町の夏祭り「新宮(しんご)納涼祭」にも参加した。神様を熊木川沿いの「お旅所」へ夕涼みにお連れするため、高さ9メートル近い奉灯(ほうとう)を担ぐ。組み立てから手伝い、「静かな祭りと聞いていましたが、ものすごい熱量。和ろうそくを使っているため、奉灯が倒れたり傾いたりすると燃える。緊張したけれど、お宮までお返しすると達成感が込み上げた」と興奮冷めやらぬ様子。こちらは能登入りを台風に阻まれて見逃したが、紙面に掲載する写真は、学生の村山和弥さん(22)が撮影してくれた。

中島町地域の全集落、各末社から集められた猿田彦の仮面=いずれも石川県七尾市中島町で

中島町地域の全集落、各末社から集められた猿田彦の仮面=いずれも石川県七尾市中島町で

 町には「能登中島祭り会館」があり、訪れてみると、大型ビジョンで幻想的な夜景を見、鉦(かね)、太鼓の音に包まれ、ガイドの干場多豆子(ほしばたづこ)さん(69)の優しい能登ことばにうっとりした。秋のお熊甲(くまかぶと)祭では、各集落から猿田彦の仮面をつけた先導が集まり、乱舞するそうだ。

 和倉温泉に投宿。翌日の昼食は、学生がアルバイトしている笠師保駅前の「浜焼き 能登風土」で。キンと冷えた天然岩ガキの味の濃いこと。その大きさは、5口はかぶりつけたほど。オクラなど夏野菜も、炎天下、畑で農作業する学生にエールを心で送りながら味わった。

 店主や農家、旅館のおかみと話すと、学生や旅人と自然や文化を共有したいと願う気持ちが温かく伝わる。その大きく開かれた胸を借り、若者たちはひと夏の経験をどう表現するだろう。

文・写真 稲葉千寿

(2019年月8月30日 夕刊)

メモ

◆交通
能登演劇堂へは、のと鉄道・能登中島駅からタクシーで3分、徒歩で20分。
名古屋からは金沢駅に出て、和倉温泉行きの特急に乗り継ぐのが便利。
和倉温泉駅からのと鉄道で能登中島駅へは約15分。

◆問い合わせ
能登演劇堂=電0767(66)2323。
月曜・祝日休み。
中島タクシー=電0767(66)0114

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カキ

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新宮納涼祭

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★能登演劇堂での公演
「風間杜夫ひとり芝居平和三部作」(10月14日)など。
公演日には金沢、七尾、和倉温泉の各駅から観劇バスが出る(8日前までに要予約)。

★カキ
岩ガキは6~9月、笠師保駅前「浜焼き 能登風土」=電0767(68)3765=などで食べられる。
一つ800~1200円。
真(能登)ガキは秋から春に、能登中島駅そばの「フレッシュパニエのと」や、演劇堂広場で開く「七尾湾能登かき祭特別イベント」(来年2月29日、3月1日)などでも楽しめる。

★能登中島祭り会館
新宮納涼祭など地域の祭りを、道具の展示や映像で紹介。
最大の祭りは国指定重要無形民俗文化財「お熊甲祭」で、毎年9月20日に開催。
その中に豊穣(ほうじょう)を感謝し20メートル以上の深紅の旗を担ぐ「枠旗(わくばた)行事」があり、晴天時は枠旗担ぎ体験ができる。
月曜定休。電0767(66)2200

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