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メドックマラソン

メドックマラソン フランス ほろ酔い“フルコース”

ブドウ畑の間を走り抜ける仮装したランナーら

ブドウ畑の間を走り抜ける仮装したランナーら

 たわわに実ったブドウが濃い紫に色づくころ、世界中のワインとマラソン好きがフランス南西部に集まってくる。銘醸地ボルドー郊外、名だたるシャトー(ワイナリー)が立ち並ぶメドック地方で開かれるフルマラソン「メドックマラソン」だ。9月上旬、ブドウ畑の間を走り、給水所でワインが供されるマラソンに参加した。

 「王のワイン」とも言われる「シャトー・ラフィット・ロートシルト」や「シャトー・ラトゥール」、ハートのラベルで知られる「カロン・セギュール」。どれも、コース沿いにワイナリーや畑がある最高級ワインだ。ポイヤック村の内外を走るマラソンは、村南側のブドウ畑をぐるりと20キロ、次いで北側を1周する。今年は75カ国から8500人が参加した。

 午前9時半にスタートしてから間もなく、コースはブドウ畑の中に入った。しばらくはアスファルトの道だが、やがて脇にそれて砂利道に変わる。両側には高さ1メートルほどのブドウの木が整然と並ぶ。

 1カ所目の給水所ならぬ“給ワイン所”は約1キロ地点。テーブルの上に、深さ3センチほど赤ワインを入れたプラスチック製コップがずらり。さっそく1つ取り、口に含んだ。よく冷えた軽めの赤ワインで、火照った体に心地良い。ひと息に飲みそうになったが、先の長さを考えて我慢した。

給ワイン所でのワインのおもてなし

給ワイン所でのワインのおもてなし

 給ワイン所は約20カ所ある。走り始めて8キロ少し、日本にもなじみが深い「シャトー・ラグランジュ」にたどり着いた。1983年にサントリーが買収したワイナリーだ。欧米企業以外による買収は初めてで当時は日本バッシングも起きたが、荒廃したシャトーや畑の再建と高品質のワイン造りで今や高い評価を受けている。

 その後も、ブドウ畑の間を走っていると給ワイン所が次々現れる。調子に乗って飲んでいると、15キロを過ぎたあたりで妙な動悸(どうき)が。大事を取って、続く数カ所は軽く口に含む程度に抑えた。出場前に健康診断を受けた医師の言葉がよみがえる。「ワインが長期的な健康に与える影響はともかく、運動しながら飲む長所なんて聞いたことないですよ」。適量を意識して飲む「自制心」を養う意義があるくらいだろうか。

 ランナーは、今年の仮装テーマ「スーパーヒーロー」の姿で走る。米映画「スーパーマン」や「バットマン」に交ざり、日本のアニメ「ドラゴンボール」の登場人物に扮(ふん)した参加者。中には「私のヒーローは…パパ」と手書きしたTシャツ姿の女性もいた。沿道で市民による応援の生演奏があれば踊り狂い、再び走り続ける。

 途中、水分を取りすぎた選手はコースを少し外れてブドウ畑に駆け込む。男も女も、ブドウの木に隠れて用を足すおおらかさだ。周りのランナーと「コース沿いのブドウは絶対に生育が良いはずさ」と軽口をたたきながら、次の給ワイン所を目指した。

ワインをコップについでもらうランナー=いずれもフランス・メドック地方で

ワインをコップについでもらうランナー=いずれもフランス・メドック地方で

 マラソン終盤の40キロ付近、生がきを出すテントが登場した。塩気と汁気、ひんやりとした口当たりが毎年人気の給水地点だ。続いてステーキに、アイスも。ご褒美のようなテントが終われば、後はゴールを目指して走るだけ。完走者には、ワインと記念メダルなどが待っていた。

 ワインの入った木箱にはこんな文言が書かれていた。「世界一長いマラソン」。給ワイン所のシャトー内でワインを求めて動き回り、生演奏で踊る。メドックの風土を堪能するマラソンは、確かに42.195キロでは済みそうにない。

 文・写真 竹田佳彦

(2019年10月25日 夕刊)

メモ

◆交通
ボルドーへはパリから高速列車TGVで約2時間半。
メドックマラソンが発着するポイヤック村はボルドーから約40キロ北北西にあり、出場者には送迎バスがある。

◆問い合わせ
来年は9月12日開催。
詳細は実行委員会の公式サイト=medocmarathonで検索、フランス語と英語=で。
日本から参加ツアーもある。

おすすめ

シテ・デュ・バン(ワイン博物館)

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カヌレ

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★シテ・デュ・バン(ワイン博物館)
ボルドー郊外にあり、世界各地で造られているワインの歴史や醸造方法、食文化などワインのすべてを知ることができる。
建物の外観はデキャンタの形で、遠くからでもすぐ分かる。
香りを表現するときに使われる「革手袋」や「はちみつ」「ジャム」「古書」などが入った容器のにおいをかぐなど、体験的なコーナーも。
入場料は音声ガイド(日本語あり)と試飲付きで20ユーロ(1ユーロ=約120円)、6~17歳は9ユーロ。
6歳未満は無料。

★カヌレ
ボルドー名物の焼き菓子。
外はカリカリ、中はもっちりで、バニラとラム酒の香りが豊か。
ワイン造りで卵の白身を使うため、余った黄身を使うため誕生したとの説がある。
ボルドー市内には有名店がいくつもあり、大半の店で大中小3つの大きさを販売。
値段は店により、大1つ0.7~3.5ユーロ程度。

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