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健康を習う

健康を習う ソウル 韓方の心 暮らしの中に

薬茶房ポムドンで思い思いの足湯に漬かる女性たち=いずれも韓国・ソウルで

薬茶房ポムドンで思い思いの足湯に漬かる女性たち=いずれも韓国・ソウルで

 飛行機を降りると、日本とは違う香りを感じた。東洋の薬草やキムチのにおいだろうか。これは、異国の健康法を学ぶ「ウェルネス観光」に期待が持てそうだ。健康的な生活を送るヒントを探しに、伝統と革新が入り交じる街、ソウルを巡った。

 韓国では、食べることは単に空腹を満たすだけでなく、体や心を治す薬と同じだ、という伝統的な考えがある。「薬食同源」という。実際にキムチやコチュジャンなどの発酵食品や、参鶏湯(サムゲタン)に代表される韓方(ハンバン)(韓国式漢方医学)の生薬が入った料理など、体にいい食べ物は日本でもよく知られている。

 まず、弘大(ホンデ)の閑静な住宅街にある薬茶房ポムドンを訪れた。若者客も多い明るい店内では、体調に合った韓方茶を頼めるほか、茶葉も購入できる。「集中」「活気」など気分を表す基本の6種類のお茶をベースに、生活習慣を加味すれば、48種類ものお茶の調合が可能だ。ポットから湯気とともにふわりと独特な香りがした。ナツメのにおいだろうか。私の選んだ「安心」のお茶は想像した苦さはなく、ほっとする味がした。

 韓方の足湯もでき、「冷え」「ほてり」などが選べる。「乾燥」の湯を選んだ愛知県大府市の深谷友美さん(32)は「香りも良く、温度を好みにできてうれしい。疲れが飛んで潤った」と話した。

 さらに韓方を知ろうと、韓方スパ女容国(ヨヨングク)を訪ねた。ここでは韓方薬剤を使ったエステやマッサージが受けられる。

女容国でOリングテストを受ける女性(右)

女容国でOリングテストを受ける女性(右)

 最初に通された部屋には、初めて見る器具や薬剤が並ぶ。右手の人さし指と親指の腹同士を付け、その離れ具合で体質を見極める「Oリングテスト」をする。まるで占いでもしているようだ。対応してくれた女性は「体に合うオイルや韓方薬剤をこれで決めます。あなたは少陽です」。初めて聞く言葉だ。韓医学では四象(ししょう)体質と称し、誰もが生まれながら太陽、少陽、太陰、少陰と4つの体質に分けられるそうだ。少陽の中でも体が冷える人は「消化器系が弱い。食べ物は海産物が合う」などのアドバイスをもらった。

 顔のエステを頼むと、韓方薬が香る中、フォーク状の陶器で規則的にほおやおでこをちくちくと押されたり、首と肩を温めた石でほぐされたりした。熱が上半身にたまり過ぎていたという私は、おなかを温めることで熱が下に流れるようにしてもらった。心地よく、意識が遠のいていきそうな気がした。

 終わった後、同じメニューを選んだ数人に話を聞くと、私以外に温めた人はいなかった。状態に応じて少しずつ内容を変えているようだ。茶房にしてもスパにしても、個人に合わせたオリジナルの内容がうれしい。

 ソウル駅にある大手スーパーに行くと、ティーバッグや乾燥させた植物、濃縮エキス、化粧品など多様な韓方の商品があった。しっかりと暮らしに根付いていることが分かる。ソウル近郊に住む李碩峻(イソクジュン)さん(44)は「父は普段から風邪予防の効果もある五味子(オミジャ)茶を、僕は疲れた時に6年物の紅参(ホンサム)茶を飲みます」と話し、男女の別なく生活に取り入れているようだ。四象体質については「調子が悪い時に合わないとされる食べ物を避ける程度に参考にしている」という。

韓方のお茶 化粧品 高麗ニンジン
 
ソウル路7017から見える赤れんがの旧ソウル駅(右)と新駅(左)

ソウル路7017から見える赤れんがの旧ソウル駅(右)と新駅(左)

 店を出て、夜空に青く光る「ソウル路7017」を歩く。1970年に造られ、2017年に歩行者専用に改築された高架道路で、ソウル駅近くから南大門(ナムデムン)辺りまで延びている。池や花壇があり、設置されたピアノを弾く人も。赤れんがの旧ソウル駅とガラス張りの新ソウル駅が見える。この新旧が交ざる景色は、古くから重用された韓方が今も、足湯など若者受けする新しさを取り入れながら愛されていることに通じると感じた。

 文・写真 鈴木千晴

(2019年11月1日 夕刊)

メモ

◆交通
韓国の仁川国際空港へは中部国際、成田、羽田の各空港から直行便が出ている。
空港からソウル中心部までは高速バス、電車、タクシーで1時間ほど。

◆問い合わせ
韓国観光公社ホームページが詳しい。

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マッコリバー「シェマッ」

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韓国家具博物館

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望遠市場

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★マッコリバー「シェマッ」
ソウル市江南(カンナム)区にある蔵元直営の店。
乳酸菌やアミノ酸が豊富な生マッコリが飲める。
看板メニューの「白蓮」は、発酵途中にハスの葉を入れてまろやかさを出しているという。
フルーツマッコリなどおしゃれなメニューも。
どれも酸味はなく、優しい甘さと微炭酸で飲みやすい。

★韓国家具博物館
伝統的な木製家具を展示する私設の博物館。
建物や庭、家具で朝鮮王朝時代の生活様式などを再現し、家に招かれたような気分が味わえるという。
2010年の20カ国・地域(G20)首脳会合で夫人の食事会が開かれた。
室内は撮影禁止。
要予約。
ガイドは英語か韓国語のみ。

★望遠(マンウォン)市場
1970年代後半にできた伝統的な市場。
豊富な種類のキムチや山積みの唐辛子、ごま油、餅菓子などの店が集まり、韓国の市場らしい雰囲気が楽しめる。
甘辛い味付けの唐揚げタッカンジョン(3000ウォンから。100ウォン=9.3円)や、うどんに似たカルグクスなど、B級グルメの人気店もある。

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