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【和歌山】観光筏下り 和歌山県北山村

ジャンル・エリア : 乗り物 | | 文化 | 歴史 | 生き物 | 自然 | | 近畿  2018年05月31日

激流を行く北山川筏下り。水しぶきを受け、歓声を上げる参加者

激流を行く北山川筏下り。水しぶきを受け、歓声を上げる参加者

激流の水しぶき 壮快

 紀伊半島の中ほどに位置し、全国唯一の飛び地の村として知られる和歌山県北山村。熊野川の支流で夏季に行われている「北山川観光筏(いかだ)下り」が40周年を迎えた。ラフティングなどとはひと味違った壮快な川下りを体感した。

 筏下りは、およそ600年の歴史があるという「筏流し」が原点で、村が観光の目玉にと始めた。いにしえから木材の産地だった北山。伐採された木材は筏師によって熊野川河口の新宮に運ばれた。16世紀末には伏見城の用材となったり、江戸城本丸の造営にも使われたという歴史がある。

 道の駅おくとろにある観光センターで受け付けと着替えを済ませ、バスに乗り込み、筏下りの出発地へ向かう。川へ下りると杉の丸太で組んだ7連結の筏が浮かんでいて、全長は約30メートルもある。両サイドに手すりがあって、腰を下ろすことができる柱も通してある。

 救命胴衣を着用して説明を受け、一列になって筏に乗り込むと出発。いきなり「オトノリ」という難所に突っ込む。長男を危険な目に遭わせないように弟に乗らせるという言い伝えがある。筏が上下に激しく揺れたかと思うと、下から水が噴き出してカメラがぬれてしまった。

 この手すりがないと転倒してしまいそうだ。「ジェットコースターよりも迫力があるね」と後ろにいた奈良県の年配夫婦は余裕だ。やがて、柱に腰を下ろしてゆったりと川を下りながら周囲の景色を楽しむ。水深20メートル近くある大きな淵を通過する。岩ツツジの咲く岩盤帯が迫り、真っ白なヤマボウシも見える。流れには大きなコイや海から遡上(そじょう)してきたアユが泳ぐ。

見事に櫂やさおを操る筏師の動きも見ものだ=いずれも和歌山県北山村で

見事に櫂やさおを操る筏師の動きも見ものだ=いずれも和歌山県北山村で

 筏師は3人いたが、かじを取るだけでなく、流れの緩い場所では、櫂(かい)でこいだり、岩盤にさおを押し当てて、船が前に進むようにしたりと、前後左右と飛び回りながら汗を流している。後方に乗っていた泉家ふみおさん(50)は地下足袋姿。その精悍(せいかん)な顔つきと動きを見ているだけで、筏を流すのに高度な技量と体力が必要なのがわかる。「3年修業しないと、お客さんの命を預かる筏師にはなれないんだよ。体力的にもきついよ」と泉家さん。

 川は蛇行を繰り返し、時折、現れる難所では手すりにつかまって激流の迫力を味わう。落差2.5メートルの「上滝」と呼ばれる難所では膝ががくがく。やがて5.5キロ、1時間ちょっとの川旅が終わった。

 何百年続いた技術でも一度失ったら取り返すことは難しい。輸送手段の変化で筏流し本来の役割は終わったのかもしれないが、観光という形に姿を変えて先人の技術が受け継がれていることに驚いた。これぞ世界に誇れる日本のアクティビティーだと感じた。 (柳沢研二)

 ▼ガイド 筏下りは満10歳以上、満75歳以下が対象。6月までが土、日曜、7~9月は木曜を除き毎日運航。1日2便で受け付けは午前9時~10時20分、午前11時半~後0時40分。要予約。中学生以上6000円、小学生3000円。8月は中学生以上7000円、小学生3000円。北山村観光センター(電)0735(49)2324

(中日新聞夕刊 2018年5月31日掲載)