ジャンル・エリア : 岐阜 | 文化 | 芸術 2018年11月29日
全国最多となる30の地歌舞伎保存団体がある岐阜県では、年間を通じて、県内各地の芝居小屋などで公演が開かれている。これに合わせて、外国人を含む観光客向けのツアーやイベントも次々と登場し、人気が出ている。バスツアーに同行して、同県飛騨市の地歌舞伎公演を観賞した。
地歌舞伎とは、江戸期に始まった歌舞伎を見た人々が、自ら役者となって演じた素人芝居で、庶民の娯楽として受け継がれてきた。同県は中山道のある東濃地方が盛んで、県内には昔ながらの様式の芝居小屋が9つある。公演の多くは入場無料で、観客からのおひねりや寄付などで運営している。
今回同行したJR名古屋駅を発着するツアーは満席で、車内では地歌舞伎役者でもある案内人の足立伊公子(いくこ)さん(59)が、演目のあらすじや楽しみ方をわかりやすく説明してくれた。薬草ランチと酒蔵見学を楽しみ、公演会場となる同市河合町の文化施設、友雪館へ。この日は、同町の文化祭なども同時に開かれ、入り口ではイワナの塩焼きや赤カブなどの地元野菜も販売。山里の祭りといった雰囲気だ。
ストーブがたかれたホールで同市河合町歌舞伎保存会による公演が始まった。一幕目は「白浪五人男 稲瀬川勢揃(せいぞろ)いの場」で、女性5人が次々と見えを切ると、床に座った観客から「みき」「ひとみ」などの掛け声。傍らで必死に地方を務めていた小学生らにも大きな拍手が送られていた。長い幕間には、酒が入って赤ら顔の地元男性らの「今年は台風が多かったけれど、無事に収穫が済んでよかった」というにぎやかな会話も聞こえる。
最後は「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん) 工藤館の場」。父の敵と対面した兄弟に注目が集まった。弟は大声をあげ、舞台を激しく踏みながら、かたきを討とうと迫る。この熱演に大きな掛け声とおひねりが飛び交う。華やかな舞台とあいまって、会場の興奮は終了してからも収まらなかった。隣の席にいた名古屋市北区の寺辻育代さん(69)は「舞台はアットホームな感じで、手作り感があってよかったです。笑いを誘う場面もあって楽しめました」と満足した様子だった。
大歌舞伎とは違ったゆるやかな雰囲気が人気の理由の一つと感じた。今度は掛け声のタイミングの予習をして弁当持参で、昔ながらの木造の芝居小屋で見たくなった。 (柳沢研二)
▼ガイド 岐阜県の12月の地歌舞伎公演は2日に山岡歌舞伎公演(恵那市の山岡町農村環境改善センター)、9日に東濃歌舞伎大会(中津川市の東美濃ふれあいセンター歌舞伎ホール)である。同県の地歌舞伎については、ぎふ歴史街道ツーリズム事務局(電)0584(71)6134。JR名古屋駅発着のバスツアーは、12月9日に東濃歌舞伎大会(中津川市)、2019年3月3日に東濃歌舞伎中津川保存会 吉例歌舞伎大会(同)がある。地元料理店の弁当などが付く。名阪近鉄カッコーセンター(電)052(563)7500
(中日新聞夕刊 2018年11月29日掲載)