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【長野】無言で語りかける美 松本民芸館 松本市

ジャンル・エリア : 展示 | 工芸品 | 甲信越  2019年04月04日

民芸店や飲食店が並び、観光客でにぎわう中町通り

民芸店や飲食店が並び、観光客でにぎわう中町通り

 城下町である長野県松本市は、クラフトの町としても知られる。毎年5月には手仕事の作品を集めたクラフトフェアが開かれ、2日間で約5万人が来場するという。中町通りや縄手通りは民芸店や工芸店が軒を連ね、あちこちでクラフト文化が息づいている。

 この風土は、市民による戦後の民芸運動がベースにあるのかもしれないと、まず市の東北部にある松本民芸館を訪ねた。民芸運動とは「無名の職人が作る日用品に美が宿る」との考えから民衆的工芸品(民芸)を評価し紹介する運動のこと。

 バスを降り2分ほど歩く。長屋門の先はブナやケヤキの雑木林。石畳を進んでいくと、なまこ壁が印象的な建物が目に入る。ここは、日本の民芸運動の父、柳宗悦に影響を受けた工芸店店主の丸山太郎さん(1909~85年)が62年に創設、生涯をかけて集めた6800点の民芸品が展示されている。1号館展示室に入ってすぐ、唐草模様の大きなとっくりに目がとまった。田中有規子館長(64)に生産地を尋ねると「このメッセージを読んでみてください」と、丸山さん直筆の書の前に導かれた。そこには「…説明があって物を見るより、無言で語りかけてくる物の美を感じる方が大切です。…その物の美を直感で見てください…」とある。

 なるほど…。能書きはいらない。丸山さんの審美眼で選ばれた品々をゆっくりと見てみよう。さまざまな陶磁器、ガラス器、家具、竹製のかご、みの、玩具…どれも人のぬくもりを感じる。2階には大きな窓があり、晴れていれば、北アルプスを望むことができるというが、この日はあいにくの天気だった。

ゆったりと時が流れる松本民芸館2号館の内部=いずれも松本市内で

ゆったりと時が流れる松本民芸館2号館の内部=いずれも松本市内で

 2号館には英国製のウィンザーチェアやテーブルが置かれた居間のような空間がある。和室もあり、ここで半日寝転がっていく人もいるのだとか。私も和室に座って、窓から雑木林を見ていた。丸山さんは日本庭園ではなく雑木林にこだわったという。「民芸」の本質を少しだけ実感できたような…。

 民芸館を後にし、歩いて15分ほどの美ケ原温泉、地元の人でにぎわう日帰り入浴施設「白糸の湯」へ。露天風呂につかりながら、丸山さんの書を思い返し、自分の日常を省みた。やはり無心になることは難しい。

 バスで市街地に戻り、中町通りにある松本民芸家具のショールームへ。同家具の創始者、池田三四郎さんも民芸運動の中心人物。松本は和家具の産地として栄えたが戦後、衰退。池田さんは名工を集め、英国人陶芸家で民芸運動にも携わったバーナード・リーチの指導を受け、独特の風合いを持つ家具を生み出した。受け継がれる技の数々を堪能した後は、使い込まれた民芸家具が置かれたカフェでひと休み。民芸運動に尽力した人々の情熱に思いをはせた。

 (山崎美穂)

 ▼ガイド 「松本民芸館」は午前9時~午後5時。入館料は300円。休館日は月曜(祝日時は翌日)。松本バスターミナルから美ケ原温泉行きに乗り約15分、「松本民芸館」下車。(電)0263(33)1569。「松本民芸家具中央民芸ショールーム」は午前9時半~午後5時50分。無休(年末年始は休業)。(電)0263(33)5760

(中日新聞夕刊 2019年4月4日掲載)