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【岐阜】挑む棋士を支えた名湯 王位戦舞台の水明館 岐阜県下呂市

ジャンル・エリア : | 岐阜 | | 文化 | 温泉 | 紅葉 | 自然  2019年11月07日

対局があった青嵐荘の夕顔の間で、挑戦者の席に座る長谷川さん=岐阜県下呂市の水明館で

対局があった青嵐荘の夕顔の間で、挑戦者の席に座る長谷川さん=岐阜県下呂市の水明館で

 いつだってそうだ。プロ野球などスポーツの勝利者インタビューは熱く元気いっぱいだが、将棋は違う。勝者は疲れ切っている。長時間、脳みそを使い続けてもう何も出ない。記者の質問にどうにか答えを絞り出す。

 あのときの木村一基・現王位もそうだった。9月26日、第60期王位戦7番勝負(中日新聞社主催)の第7局で豊島将之王位を破り、46歳で初タイトルを獲得。「なぜ取れたか分からない。ただ夢中だった」

 木村が同棋戦七番勝負に初めて登場したのは、2009年の第50期。そのときの第一局が行われたのは岐阜県下呂市の日本旅館、水明館だ。木村の“初心”に触れようと訪ねた。

 4つの建物がつながった広い旅館で、廊下には王位戦や竜王戦、囲碁の天元戦などが開催されたときの写真がずらりと飾られている。王位戦が行われたのは、青嵐荘という離れの建物の「夕顔の間」。フロントのある飛泉閣からは、日本庭園でコイが泳ぐ様子を見て散歩しながら行ける。同館の囲碁・将棋の対局で世話係を務めてきた青嵐荘フロアマネジャーの長谷川貢三さん(86)は「木村先生は対局前、館内をよく歩いてらっしゃいました」と当時を振り返る。

 夕顔の間は1階にある。木村はここで、床の間を背にした深浦康市王位と対峙(たいじ)した。相手が考慮中、右手に見える庭を眺めたりもしたんだろう。長谷川さんは「木村先生は確か、対局中に風呂に入られました」と明かす。「それくらいじゃないと勝てないんでしょうね」。

 木村が泊まったのは2階の竹河の間。一晩、千日手の打開を考えたという部屋だ。結局、千日手は避けられなかったが、指し直し局で木村は勝った。

 その夕顔の間は、宿泊客がいなければ見学できる。ただ「週末はずっと埋まっている」(長谷川さん)という状況だ。自分で泊まってしまえば存分に堪能できるが、2人で宿泊する場合で1人8万5000円(税別)からと、少し奮発する必要はある。

 木村も入った同館の温泉を楽しむことにした。日帰り入浴なら1100円とお手ごろだ。露天風呂でゆったり漬かっていると、気持ちがほぐれていく。少しぬるっとした湯が気持ちいい。

10月下旬、ほのかに色づき始めた中山七里の紅葉。見ごろは11月中旬からの見込みだ=岐阜県下呂市で

10月下旬、ほのかに色づき始めた中山七里の紅葉。見ごろは11月中旬からの見込みだ=岐阜県下呂市で

 下呂温泉の南には「中山七里」と呼ばれる風光明媚(めいび)な飛騨川の峡谷がある。水の流れと奇岩、木々の組み合わせが美しい。例年同様、今月中旬に紅葉が見ごろを迎える見込み。国道41号、JR高山線沿いなので、車でも電車でも楽しめるのがいい。

 将棋ファンも、そうでない人も、働きすぎたり、何かに熱中しすぎたりして疲れたら、名湯と紅葉を味わいに下呂を訪れたらどうだろう。 (金森篤史)

 ▼ガイド 名古屋から下呂へは、JR高山線の特急ワイドビューひだで1時間40分程度。中山七里の紅葉情報は、下呂市公式観光サイト「下呂たび」などで確認できる。水明館(電)0576(25)2800

(中日新聞夕刊 2019年11月7日掲載)