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【大阪】江戸風情醸す屋敷や町家 環濠都市の面影求めて 堺市

ジャンル・エリア : 展示 | 文化 | 歴史 | 近畿  2020年11月05日

現代に残る数少ない江戸初期建築の町家「山口家住宅」の土間

現代に残る数少ない江戸初期建築の町家「山口家住宅」の土間

 マスク姿の街歩きも気候的には苦痛が和らいだ。当欄取材の機会を得て、歴史好き記者が旅先に選んだのは堺市。昨年、世界文化遺産となった百舌鳥(もず)古墳群で有名だが、今回は時代を進め、環濠(かんごう)都市の面影を足で探ることにした。

 古くから水陸交通の要として人、物、情報が行き交った堺。応仁の乱以降に貿易で栄え、周囲を濠で囲んで自治を展開した。1615年の大坂夏の陣の前哨戦で豊臣方に焼かれ焦土と化すが、江戸幕府が復興に着手。南北3キロ、東西1キロに広げる形で濠を掘り直し、街路を碁盤目状に整える「元和の町割(まちわり)」を行った。

 「と、いうことで中世の建物は見られません。近世の町並みも戦時中に大空襲を受け、辛うじて免れた北と南に面影が残ります」。堺市博物館の海辺博史学芸員(47)のアドバイスで、まずは近世・堺の北側地域を目指した。

 南海電鉄七道駅を降り、環濠の名残である水路を横目に歩くこと10分強。希少な江戸初期建築の町家として主屋が国重要文化財となっている「山口家住宅」に着いた。受付では検温、手指消毒のほか「大阪コロナ追跡システム」への登録も促された。わが家と同じくらいの広さと太い梁(はり)、高い天井が印象的な土間をはじめ、二度の増築で完成した大空間は圧巻だ。ガイドボランティア池田俊彦さん(80)は「今、立つのが町割直後の地面。400年前の建物を実際に見て回れるのはここぐらいですよ」。周囲の古いお香店、3年後に資料館として公開される現存最古の鉄砲鍛冶屋敷も江戸風情を醸し出す。

今も水路として残る環濠=いずれも堺市堺区で

今も水路として残る環濠=いずれも堺市堺区で

 徳川家康が葬られたとの謎の伝説が残る南宗寺など寺町地域に加え、緑豊かな大仙公園の市博物館へも。古墳時代と並び中世の解説にも力が入り、戦国期の合戦を劇的に変えた火縄銃が目を引く。「需要に早々と気づき、分業体制や火薬とのセット販売で堺の鉄砲産業は活況を呈します。近世に入り平和になっても斜陽化せず、銃身を象嵌(ぞうがん)で飾るなど芸術的要素を加え全国に売り込んだ。最近見つかった古文書を見ると、生産のピークはむしろ江戸後期だったと分かってきました」と海辺学芸員。建物への金のかけ方が「堺の建て倒れ」とたとえられ、茶の湯など深みある文化まで育んだ経済力は、人々の柔軟な思考とチャレンジ精神のたまものだったのだろう。

 昼食は、市民なら知らぬ者なしという「ちく満」へ。せいろそば一択で、蒸し器に乗った熱々ふんわり食感のそばを、卵を溶いたやはり熱いつゆにくぐらせていただく。何やら古風だと思ったら、こちらは創業300年以上とか。舌でも往時に思いをはせることができた。 (谷村卓哉)

 ▼ガイド 古い町並みや古墳を巡るなら、堺観光ボランティア協会の有料ツアーがおすすめ。(電)072(233)0531。堺市博物館は今年で開館40周年。檀木製では国内最古・最大の仏像など40件を公開するコレクション展を開催中。改装のため12月から一部休館、来年2月から休館。3月13日に再開し特別展「海を越えたつながり」を開く。(電)072(245)6201

(中日新聞夕刊 2020年11月5日掲載)