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【滋賀】トンネル抜け「絶景かな」 びわ湖疏水船 大津~京都市

ジャンル・エリア : 乗り物 | 神社・仏閣 | 自然 | 近畿  2021年11月18日

びわ湖疏水船に乗り込む観光客ら。出発すると、すぐ第1トンネル(奥)に入る=大津市で

びわ湖疏水船に乗り込む観光客ら。出発すると、すぐ第1トンネル(奥)に入る=大津市で

 「琵琶湖の水止めたろか」

 京都や大阪の人間から田舎者と揶揄(やゆ)された滋賀県民が放つという、関西人にはおなじみのジョークだが、実際に止まったことはない。南端から流れ出る瀬田川は淀川となって大阪府民ののどを潤す。そしてもう1つ、明治期に掘られた水路「琵琶湖疏水(そすい)」は京都市へ水を供給し、現在も農業・工業用水や水力発電、上水に利用され続けている。琵琶湖はやはり「近畿地方の水がめ」なのだ。

 舟運もあったが、陸上交通の発達と戦争の影響で1951(昭和26)年に途絶えた。2018年に春秋の観光船として67年ぶりに疏水船が復活すると、予約が殺到する人気ぶりとなっている。

 大津市の乗船場は、三井寺の名で知られる天台寺門宗総本山・園城寺(おんじょうじ)のすぐ近く。ガイドはどう見ても日本人のおじさんなのだが、「トム・クルーズといいます」と名乗る。いわく「トムと一緒に楽しくクルーズしましょう」。ベタなノリに顔が緩む。

疏水分線を通す南禅寺境内の水路閣=京都市で

疏水分線を通す南禅寺境内の水路閣=京都市で

 運航ルートは、1890年に完成した第1疏水を中心に約7.8キロ。大津から京都市東山区の蹴上(けあげ)に向かう下り便は、1時間近くの船旅だ。

 乗客12人を乗せた船は、出発してすぐに全長約2.4キロの第1トンネルに入る。山上から垂直に穴を掘り、そこから両側に掘り進める「竪坑(たてこう)方式」を日本で初めて採用したといい、2カ所の竪坑の位置で頭上を仰ぐと、光が差し込んだ。地上を走る区間では木々の紅葉に加え、水辺で遊ぶアオサギやセキレイとの出合いも楽しい。

 蹴上で下船して歩くと、ほどなく南禅寺にたどり着く。境内には「水路閣」があり、ここにも琵琶湖疏水の分線が流れる。れんがと花こう岩で造られたアーチ形の水道橋は、現代人にとっては「映(ば)え」スポット。和服姿の多くの若い女性たちが、さまざまにポーズを取ってスマートフォンを向け合っていた。

 寺の正門として設けられた重要文化財の「三門」は、高さ約22メートルの威容を誇る。それにしても、どこかで見たことがある気がする。

 思い出した。歌舞伎「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」で、石川五右衛門がきせるを吹かしながら名ぜりふを述べる場面だ。

 楼上に上がってみると、なるほど、京都市街を一望できる大パノラマ。眼下には、赤や黄に色づいた木々が境内を染めている。

 五右衛門よろしく大音声(おんじょう)を張り上げたいところだが、そこは寂しい一人旅。マスクの下で、こっそりつぶやいた。

 「絶景かな、絶景かな」 (築山栄太郎)

 ▼ガイド 大津乗船場は大津市の京阪三井寺駅から徒歩約2分、山科乗船場は京都市山科区の京阪四宮駅から徒歩約10分、蹴上乗船場は同市東山区の市営地下鉄蹴上駅から徒歩約5分。秋季の運航は11月末まで。要予約。春季は要確認。乗船料は区間、運航日により2000~8000円。受付事務局(電)075(365)7768。南禅寺は同駅から徒歩約10分。三門の拝観料は600円。(電)075(771)0365

(中日新聞夕刊 2021年11月18日掲載)