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【奈良】「世界一の福寅」いざ出番 信貴山朝護孫子寺 奈良県平群町

ジャンル・エリア : | 生き物 | 神社・仏閣 | 近畿  2021年12月16日

「世界一の福寅」で知られる張り子の虎。年賀状用の写真を撮る観光客が目立った

「世界一の福寅」で知られる張り子の虎。年賀状用の写真を撮る観光客が目立った

 トラと言えば。強く、どう猛で、動きはしなやか。子どもの頃は「ライオンとどちらが強いか」と考えたこともある。人気の動物だが、頭に「張り子の」と付けると、意味が逆転。ひ弱で見掛け倒しの存在になってしまう。境内に巨大な張り子の虎を飾り「世界一の福寅(とら)」と呼ぶのが、奈良県平群(へぐり)町の信貴山朝護孫子寺(しぎさんちょうごそんしじ)。「世界一」は大胆だが、「張り子」というのは謙虚な気もする。

 大体のお寺は、平地にあっても「何某山(なにがしさん)」と山号が付くが、朝護孫子寺は本当に信貴山という山の中にある。福寅がいるのは、境内の入り口近く。全長約6メートル。四肢で大地を踏みしめている。顔は上を向いていて、表情が分からない。身長170センチ弱の自分がつま先立ちになり、カメラを持った腕を思い切り上に伸ばしても顔は写らない。本当に大きい。

 案内看板によれば、1400年前、聖徳太子がこの山で戦勝祈願をすると、毘沙門天が現れて必勝の戦法を伝授。それが寅年、寅の日、寅の刻だったことから、トラがこの山のシンボルになった。「信貴山」の名を付けたのも、聖徳太子だという。本堂へと向かう参道には、騎馬で横笛を吹く聖徳太子の像もあった。

 
信貴山の名を付けたとされる、聖徳太子の像=いずれも奈良県平群町の朝護孫子寺で

信貴山の名を付けたとされる、聖徳太子の像=いずれも奈良県平群町の朝護孫子寺で

 福寅の前で、男性に声を掛けられた。「写真撮ってくれませんか。来年寅年でしょ。年賀状に使うんです」と言う。ファインダー越しの男性の笑顔は、誇らしげでもある。写真に「世界一」と書き添えて送るのだろうか。信貴山の福寅は世界一なんや。関西風のおおらかな表現が似合う福寅だ。

 山の中にある寺とあって、参道のさまざまな場所から大和平野が見える。早朝には御来光も拝めるそうだ。境内には宿坊もあり、泊まるのも面白そうだ。

 本堂の地下には真っ暗な回廊を歩く「戒壇巡り」もある。階段を下りると、ほのかに明かりがついている。新型コロナの感染予防のため、周囲の人と距離を取れるように、との配慮だが、それでも暗い。手探りで宝珠を納めた錠前を握り、家内安全を祈った。

 参拝後は、仁王門近くのラーメン店へ。ここの屋号には「日本一」の文字が入る。世界一の後に日本一。豪華な旅だ。頼んだラーメンの上に乗っていたのは、牛のすじ肉。丑(うし)年の2021年、旅レシピの締めくくりにやわらかく煮込まれた牛肉をかみしめた。 (大山弘)

 ▼ガイド 朝護孫子寺へは、JRと近鉄の王寺駅からバスで20分。車では、西名阪自動車道の香芝ICか法隆寺ICから30分。正月には交通規制が行われる場合もある。参拝は無料だが、戒壇巡りは200円。国宝「信貴山縁起絵巻」の複製などのある霊宝館は大人300円、小中学生200円。(電)0745(72)2277

(中日新聞夕刊 2021年12月16日掲載)