2017年05月21日
中国東北部、北朝鮮と鴨緑江を挟んで国境を接する遼寧省丹東(たんとう)。市中心部の丹東駅からは毎朝10時、北朝鮮の首都・平壌行きの旅客列車が出発する。午前9時前になると、改札手前の手荷物検査場は、たくさんの中国製品を抱え込んだ、中朝双方の商人らが列をなす。
その日、検査場前は、若い女性が目立っていた。中国内の北朝鮮レストランでの勤務期間を終えた女性従業員の一群らしかった。オレンジ色やピンク色のコートが華やかな雰囲気を醸す中、黒のジャンパーを着た、しかめっ面の中年男性Aさんの姿を見つけた。
人物が特定されると、身辺に危険が及ぶことも懸念されるので詳細は記せないが、北朝鮮実業家のAさんもまた、中国で数年間のビジネスを終え、帰国の途に就いていた。彼とはそれまで、何度も酒を飲み、彼の祖国に対する愚痴も聞いた。
手荷物検査の番が彼に回ってきた時、数十メートル離れたところで見守っていた私と、ほんの一瞬だけ目が合った。しかし、手を振ることも、会釈することもなく、互いに知らぬふり。私は心の中で「いつかまた」と声をかけた。 (城内康伸)