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義烏 思い出買えぬはずが

2011年10月17日

 これもあったか…。まさか、あれもなのか! 苦笑いの表情が次第に引きつっていくのが自分でもはっきり分かった。

 雑貨や小物の一大市場がある浙江省義烏市。同市最大の市場で、数万店舗がひしめく国際商貿城ではここ7、8年、世界中のお土産品が売られている。

 エジプトで「地元の銀細工」と言われて買ったアラビア文字の施された宝石箱は、同市場で20元(約240円)。ネパールで買った菩提(ぼだい)樹の実の装飾品や、インドのヒンズー教カレンダー。マルタ共和国から持ち帰ったキリストの宗教画まで、「思い出の品々」がたたき売りされていた。

 店主らによると、安価な雑貨を仕入れに世界中から訪れるバイヤーたちから、「こんなのできないか」と発注が舞い込み始めたのだとか。同市周辺には、無数の家内制製造業者がひしめき、工芸品や小物の大量生産はお手の物。たちまち、世界のお土産品の問屋となったのだ。

 異国で手に取れば「思い出に」とひかれるであろう見事な出来栄え。さらに、どれも「メード・イン・チャイナ」の文字がない。店主らは「最近は刻印していない。その方が、買う人の夢を壊さない」と笑った。取材で訪れたのだが、「できれば知りたくなかった」と複雑な思いで市場を後にした。

  (今村太郎)