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ウルムチ 締めれば締めるほど

2012年10月15日

 新疆ウイグル自治区の最大都市ウルムチの繁華街に、工事用の柵に囲まれた無人の白いビルが立つ。壁にはひびが入り、窓の一部は開けっ放しだ。

 ビルの名は「ラビアビル」。亡命ウイグル人組織、世界ウイグル会議のラビア・カーディル主席が実業家だった時に建てた。当時を知る人は「衣類や雑貨品の店でにぎわっていた」と懐かしむ。

 かつて共産党の要職も務めたカーディル氏だが、今では中国政府がウイグル独立運動の首謀者とみなし敵視する。3年前にこの近くで漢族とウイグル族が対立した騒乱事件もカーディル氏の扇動と決めつけ、ビルの取り壊しまで決めた。「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」というわけだが、なぜかビルは今も残っている。

 5月に東京で会議の代表大会を開いたことに中国政府が反発。日本でカーディル氏を知る人が増えたが、新疆での知名度、人気は高くない。あるウイグル族の女性は「よく知らないけど、昔、大もうけした党の偉い人?」と辛辣(しんらつ)だ。

 事件以降、ウイグル族への締め付けは一層、厳しくなった。「国内で声を聞いてくれる人がいない。ネットで知った海外のカーディル氏に共感する若者が増えている」とある知識人。中国の対ウイグル政策が、かえってカーディル氏の影響力を高めているとすれば皮肉な話だ。(渡部圭)