2022年10月28日

　家の様子は７年前とほとんど変わっていなかった。「胡同（フートン）」と呼ばれる路地裏の民家に住む中国人男性（６２）を久しぶりに訪ねると、彼は歯の抜けた顔をゆがめて迎えてくれた。自宅を不当に壊された上に、全財産を奪われたとして、中国政府に訴えていた陳情者の彼を取材して以来、しばしば自宅を訪ねては雑談している。

　今回の訪問は、旧交を温める他に別の目的もあった。別の陳情者が「彼は政府と示談が成立して解決金をもらい、広い家に引っ越して良い生活をしているらしいよ」と不満げに語っていたのを聞いたからだ。

　うわさはうわさに過ぎなかった。彼は何も進展しないとこぼしつつ、「当局から金をもらって、うその情報を流す陳情者もいるからね」と、自身にまつわるうわさも知っていたようだ。続いて「だから最近は陳情者同士も疑心暗鬼になってあまり連絡を取らなくなったよ」と顔をしかめた。

　彼には兄がいるが「兄貴は陳情が解決して引っ越したよ。今はほとんど連絡を取らないね」。実の兄弟さえ引き裂く当局の離間策にやり場のない怒りを覚えた。　（新貝憲弘）