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タイ・メソト 私たちの運命だから

2022年10月31日

 目立たぬように佇(たたず)む一軒家の門扉越しに、名前を呼びかける。隣家から顔をのぞかせた男性が、身ぶりで不在を教えてくれた。タイ北西部、ミャンマー国境のメソト郊外。半年前、町案内など親切にしてくれた女性を再訪したが、もぬけの殻だった。

 女性はミャンマーの地方議員。昨年2月の軍事クーデターでヤンゴンから逃れた。この住居を拠点に、海外の支援団体などと連絡を取り、逃げ延びた人たちに生活物資などの援助を工面していた。手配された身で、不法入国。常に危険が付きまとい、身を潜めていたが「私は議員。人々のためにできることをするのが仕事」と語っていた。

 スマホのアプリでつながっていたが「もしも」を考えると、すぐ連絡するのがためらわれた。別の知人に尋ねると「少し前に、ミャンマー側に戻った」という。抵抗する民主派への国軍の攻撃が今も続き、タイ側の方がまだ安全だと思われるのに。
 「なぜ?」とメッセージを送ると以前と同じ気丈な答え。変わらぬ芯の強さに少し安心した。「ウクライナ問題もあり、世界の関心が薄れている。もっと頑張らないと。それが私たちの運命だから」 (岩崎健太朗)