2023年08月18日

人々が行き交う米ニューヨークの中心部マンハッタン

　３年前この街に来たばかりのころ、書類の発送で郵便局の窓口を訪れた。「宛名はニューヨーク州ニューヨーク市だね」と係員。「そうですが」と答えると「君はこの街が大好きだから２回も書きたくなったんだな」。

　米国では州名と大都市名が一致するのが少ないことにひっかけた冗談だが、いま思えば、その後の日々を言い当ててくれたのかもしれない。見上げる摩天楼とその下で眠る路上生活者。途方もない格差を抱えながら、それでも多くの人々は夢と助け合いの心を胸に生きていた。

　コロナ禍の貧困では、街角に無償の食料を持ち寄る冷蔵庫が広がった。銃犯罪が蔓延（まんえん）すれば、有名脚本家が自作の絵本とともに学校を回って暴力の無意味さを説いた。ロシアのウクライナ侵攻には、今も国連本部前に抗議の人々が集う。世界中から人材を引き寄せ、時に生じる摩擦すらエネルギーに変えているような街だった。

　７月末、３年間の滞在を終え日本に帰った。手軽にメールもいいけれど、少し落ち着いたら、大好きになった街の人々に手紙を書いてみよう。宛名には、ニューヨーク、ニューヨークと２度書き添えて。　（杉藤貴浩、写真も）