2023年08月23日

　上海の小さなカフェの手書きメニューには、エチオピアやグアテマラなどの産地と並んで、南部の雲南省の名前を冠したコーヒーがあった。女性店長が何度も味を確認して振る舞ってくれた一杯は酸味が強い爽やかな味わいで、じっとりとした夏の蒸し暑さも幾分か和らいだ。

　中国メディアによると、上海にはカフェが八千店以上あり、世界最多の都市として売り出している。カフェが集まる通りでは、若者が写真を撮って中国版インスタグラム（写真共有アプリ）とされる「小紅書」にこぞって投稿していた。雲南省では、高く売れる高品質な品種の栽培に力を入れる。実は同省では一九五〇年代から旧ソ連の高官用に栽培がほそぼそと続いていたという。最近ではＩＴを駆使する新世代のコーヒー農家が注目されている。

　コーヒーの香りでよみがえったのが七年前に中国を初めて訪れた時の記憶だ。大都市のホテルの朝食にもコーヒーはなく、街をさまよい歩いたが、カフェは見つからなかった。そこから数年で世界一の街を生み出した中国。一杯のコーヒーからもこの国の変化の激しさの一端がうかがえた。　（石井宏樹）