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米アトランタ 正夢? 消えた1時間

2023年04月01日

 「アイ・ハブ・ア・ドリーム(私には夢がある)」の演説で有名な米国のキング牧師。先日、出張帰りに南部ジョージア州アトランタにある師の生家に立ち寄った。生涯を黒人差別解消にささげ、若くして亡くなった軌跡をたどりたかった。

 だが、現地に車をとめた瞬間、時刻を示すスマホの画面に目を疑った。「午前10時」。おかしい。ホテルを出たのは午前8時で、カーナビの予定所要時間は一時間だった。道を間違えてもいない。まだ9時のはずだ。

 からくりの答えは時差だった。広大な米国には本土だけで4つの時間帯がある。ホテルは西隣のアラバマ州にあり、州境をまたいで時刻が1時間進んでいたのだ。飛行機では何度も時差を経験しているが、陸路は初めて。賢いスマホは、こっそり自分だけ位置情報から時刻を修正したらしい。

 瞬時に1時間を失い、アトランタ発の帰路の便まで余裕がなくなった。泣く泣く生家の見学をあきらめ、空港へとハンドルを切った。いつか必ずたっぷり時間を持ってこの地を再訪しよう。「私には夢がある」と宣言するほどのことでもないけれど…。(杉藤貴浩)