2023年04月23日
「優先ニュースです」。4月中旬、テレビに見慣れた建物が映し出された。フランス政府の年金制度改革への抗議デモ隊が、本紙パリ支局のあるシャンゼリゼ通りを通過していた。一連の年金デモでは初めてだ。
慌てて様子を見に支局を飛び出すと、爆竹のごう音が響き、発炎筒の煙が立ち込めていた。数年前の「黄色いベスト運動」のデモでは通り沿いの商店が暴徒に襲撃され大損害を負った。「また、そうなるのか」と身構え、デモ隊の後を追った。
だが、デモ隊からは「店には危害を加えるな」との声が飛び、一部の参加者が通りに置かれていたごみ箱を倒すと「それはやりすぎだ」と注意されていた。デモ隊が通過するルートではしばしば交通渋滞が起きたが、先導者らが車の運転手に話しかけて理解を求めるなどマナーの良さが目立った。
先導者の一人は「意見を訴えるために騒ぎは起こすが、暴力はふるわないのがデモのルールだ」と話していた。放火や器物損壊をはたらく少数の暴徒ばかりが報道されるが、大多数のデモ参加者は平和裏に抗議の声を上げているのだと、改めて実感した。(谷悠己)