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モスクワ 善意阻む“ビジネス”

2011年07月13日

 スーパーでの買い物帰り、路上で車イスの男性が転倒するのを目にし、あわてて駆け寄った。

 けがは無さそうだったが、大柄で1人では起こせない。困っていたら数分後、通りがかりのおじさんが手伝ってくれて、再び車イスに座ってもらうことができた。人通りは多かったが、その間、ほとんどの人はこちらを見向きもしなかった。

 男性は40歳ぐらい。いわゆる物乞いで、車イスのそばの空き缶には5ルーブル(約14円)少々の小銭が入っていた。

 共助精神が強いといわれるロシア人だが、貧困層の支援ボランティアに携わる知人によると、モスクワではマフィアが物乞いを組織化しており、手を差し伸べるのは「事情を知らない地方出身者がほとんど」という。

 善意のほどこしはマフィアが吸い上げ、同情を誘うため、子供を飢えさせたり、女性に赤ん坊を貸し与えて、路上に立たせるケースもあるとか。

 知人は「本当に困窮している人も多いが、こうしたイメージが支援の広がりを邪魔している」と嘆く。

 車イスの男性とマフィアの関係は分からないが、転倒し苦しんでいたのは演技ではなかった。善意を食い物にする物乞いビジネスが、困っている人を見過ごす雰囲気をも生んでいるとしたら、やるせない。(酒井和人)