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ベルヒテスガーデン 絶景の地に教訓刻む

2013年01月07日

 標高1,834メートル。切り立った尾根の先端に立つヒトラーの山荘「ケールシュタインハウス」からの眺めはまさに絶景だった。かなたに雪をいただくアルプスの山並み。足元には緑に輝く南ドイツの田園。ベルヒテスガーデンの町が小さく見える。快晴も手伝い、空に浮いたような感覚だ。

 山荘は1940年に建てられ、外国の要人をもてなした。室内にはイタリアのムソリーニがヒトラーの50歳の誕生日に贈った大理石の暖炉が残る。道路の終点から山荘まで124メートルを一気に昇る豪華なエレベーターも当時のまま。

 ふもとからシャトルバスで運ばれた観光客が順番待ちの列をつくる。70年前にはナチス幹部と近親者が独占した絶景を今は年30万人が楽しむ。観光が主産業の地元に山荘は大事な存在だ。

 しかしヒトラーゆかりの事跡を「美しい」だけで終わらせないのがドイツ流。バス発着場の近くには、ナチスの戦争犯罪などの資料館がある。足を踏み入れると、大きな虐殺遺体の写真に迎えられ、ほおを張られたような気分になった。

 館内は肩が触れ合うほどの混雑ぶり。多くの人が展示説明を熟読する。観光と歴史学習が自然な感じで両立している。ドイツと同様な過去を持つ日本にこんな空間はあっただろうか。思わず考え込んだ。 (宮本隆彦)